「もう、オーランドが有名じゃなかったら絶対に付き合ってないわよ;だってオーランドったら今日なんて幼馴染とか言って堂々と女の子連れてきたのよ?!――ええ、そうなの。でも、私だって女優になりたくて頑張ってきたんだもの。利用できるものは利用しないと!」

トイレに行こうとして迷ってしまった私は、何だかとても聞き捨てならない言葉が耳に入り、陰でこそこそ喋っている人物に気配を悟られないように近づくとそこには何とオーリィの恋人が携帯電話で誰かと喋っていた。

と、いうことは『オーランドが有名じゃなかったら絶対に付き合ってない』と言う言葉は彼女が発していた言葉であって…

オーリィは…利用されてる…?

今では世界的にも有名になったハリウッドの若手俳優であるオーリィことオーランド・ブルームと私は、小さい頃から一緒に遊んでいた言わば「幼馴染」と言うやつで、今回の撮影現場にもオーリィから「見学しにおいでよ♪」と言われたためにお言葉に甘えて見学しに来たのだ。

何と言っても幼い頃から大好きだったオーリィから誘ってくれたことだし、仕事しているときのオーリィを見られるなんてこんな幸せなことはない。

オーリィの恋人がいなければ、なお幸せだったのだが…。

しかし、私の気持ちも知らずにオーリィは「、彼女が僕の恋人だよ♪可愛いだろ?」なんて…残酷だよ。

でも、今まで気持ちを隠していた私は何とか笑顔を作って挨拶をしたし、確かにオーリィが言うとおりで彼女はとても可愛いというか…綺麗な人だった。

そう、オーリィが大好きなブロンドの髪をなびかせている少し小柄でいかにも守ってあげたいって思うような…そんな女性だった。

だから私も大好きなオーリィが幸せならそれでいい…そう思っていたのに…。

オーリィをただ利用しているだけなんて…自分の名前を売り出したいが為にオーリィと付き合ってるなんて…。

私はそう思ったら怒りが沸々と湧き上がってきた。

「マイケル、そりそろ戻らないとオーランドに怪しまれるわ。また電話するから。―――ええ、そうね。多分週末には一度そっちに行けると思うから。―――ええ、私も愛してるわ―――それじゃ」

電話が切れた瞬間、私は頭の中が混乱した状態だったにもかかわらずに彼女の前に姿を現した。

「キャッ!あ、あなたッ!」

まさか人が立っているとは思いもしなかったのだろう。

目の前の彼女は「しまった!」と言う顔をして呆然と立ち尽くしている。

「……今の会話、どういうことですか?」

「な、何のこと?私は別に友達と話していただけよ?」

目を合わせずに彼女が答えた。

「シラを切るつもり?!私聞いてたんだから!『有名じゃなかったら絶対に付き合わない』って!利用するってどういうことよ?!」

悔しいけど、私はオーリィがどれだけこの彼女のことが好きなのか知っている。

私はオーリィに会うと、必ず彼女の惚気話を聞かされて、オーリィの幸せそうな顔を私は何度も目にしていた。

それ故、そのオーリィを裏切ったことを私は許せないのだ。

「……そんなこと、貴女には関係ないじゃない。それとも何?貴女はオーランドのことが好きだとか言うつもり?言っておくけど、オーランドは私のこと愛してるのよ?それはもう、わざわざ撮影現場に連れて来て、休憩時間に抱くくらい」

「ッ!!」

「オーランドは貴女のことなんてただの幼馴染としか思ってないわ。分かるかしら?「女として」は見てないてこと」

「そんなこと分かってるわ。私が言ってるのは、オーリィを利用するだけして裏切るなんて、あなた最低よッ!!」

私はオーリィが可哀想に思ったのか、悔し涙がボロボロと溢れてきた。

「フン!何の努力もしてない人が偉そうなこと言わないで!私は小さい頃から女優になるためだけに、いろんなものを犠牲にして生きてきたのよ?それなのに私に回ってくるのはほんの端役。いつまで経っても注目されることはない。どんなに惨めだったか…。でも、そんな時にオーランドに出逢ったのよ。初めての映画が超大作で大ヒット。その後もとんとん拍子に次から次へと仕事が舞い込んでくるなんて、神様はなんて不公平なんだろうって思ったわ。でも、神様はまだ私を見捨ててはいなかった。オーランドから私に声をかけてきたのよ。これをチャンスだと思わないわけないでしょ?!オーランドと一晩共にしただけで私の名前が雑誌に出るんだもの!私は―――」

パシンッ

右の掌がジンジンするのが分かった。

オーリィを利用するのが当然。

自分は正しいことをしたんだと思い込んでいる彼女を見て、私は思わずひっぱたいてしまった。

彼女は左頬を押さえながらも呆然としている。

「私は…私は小さい頃からオーリィが好きだった。成長していくにつれてその想いは強くなるばかりだったわ。今ではオーリィを愛してる。だから…お願いします…オーリィと別れてください」

「嫌よ…。嫌……。絶対に別れないわッ!!」




「そこで…何やってるんだ?」



「ッ?!」
「オーリィ?!」

私たちは声がした方へ振り向くと、そこには怖い顔をしたオーリィが立っていた。

「二人とも帰ってくるのが遅いと思って探してみたら…、説明してくれないか?どうして彼女を殴ったりしたんだ?それに僕と別れろってどういうことだ?!」

私たちの目の前まで来ると、オーリィは明らかに私に対して怒っているのが見て取れた。

「ちょ、オーリィ…?違うのよ、これは―――」

「聞いてよ、オーランド!この子ったら急に私に向かって『私は小さい頃からオーリィのことが好きだんだから別れて』って言ってきたのよ?!挙句の果てに見たでしょ?私の頬をひっぱたいたのよ!ほら、見て?赤くなってない?」

さすがは女優だけあって、目の前の彼女は今にも泣き出しそうな潤んだ目つきでオーリィを上目遣いで見つめている。

しかし、私だって呆然と見ているわけにはいかない。

「オーリィ、私の話を聞いて?彼女、オーリィのこと裏切ってたのよ!」

「何だって?」

「彼女の電話の内容を聞いちゃったのよ!彼女はただ自分の名声を手に入れたいが為にオーリィと付きあってるだけなんだって。この人、オーリィを利用してただけなのよ!!」

「そんなの嘘よ!私はオーランドを利用したりするはずないじゃない!!お願い、信じて?私はオーランドだけを愛してるの」

「信じちゃダメ!!」

でたらめを言ってオーリィを混乱させ、あたかも「自分は被害者」ぶってる彼女に腹を立て、私はもうオーリィを信じるしかなくなったと思った。

「………僕は何度もに『彼女を愛してるんだ』って言ったよね?」

「……ええ」

「その彼女をは殴ったんだよ?それを目撃してしまった僕が…一番ショックを受けているのが分からないか?だってそうだろ?信頼していた幼馴染がそんなことをするなんて…。それに彼女は女優だぞ?女優の顔を殴るなんて、絶対にしてはいけない事だって分からないわけないよな?」

「………幼馴染の私の言葉より…彼女の言葉を信じるのね…?マイケルって言う名前の人と彼女が付き合ってるとしても」

私は彼女の電話で微かに覚えていた名前を出すと、オーリィの眉がピクッと動いた。

「マイケル…?」

「そうよ。彼女は確かにマイケルって人に『私も愛してるわ』って言ってた。だから私は―――」

私はオーリィを裏切った彼女を許せなかったんだ、と言おうとしたが、急にオーリィの人差し指が私の唇に触れた。

それ以上は言わなくて良いと、オーリィが言っているのだ。

「確かにマイケルって言ったんだよね?」

項垂れ、特大の溜息をつきながら確認してきたため、私は頷いた。

「ねぇ、レイヤ。移り香って知ってるかい?近くにいればいるほど相手の香りが自分に移るんだ。実は少し前から僕の友達のマイケルから女性物の香水の香りがしてね。その香りが君と同じ香りなんだよ。でも、レイヤと同じ香りの香水を使っている女性なんてこの世に五万といるからね。大して気にもしてなかったんだ」

「え、ええ、そうよ。私と同じ香水使ってる女性なんてたくさん―――」

「でもね、たまに君からも違う香りがするときがあるんだ。嗅いだことがある香りなんだけど今まで分からなかった。だから特に気にしてなかったけど、マイケルって聞いて全てが一致したよ」

「え…?」

その瞬間、彼女の顔から血の気が引いた感じがした。

「レイヤからした香りはマイケルの移り香だ。そうだろ?」

「ち、違うわ!!私はマイケルとはなんでもないの!!オーランドは…私を…信じてくれないの?」

必死になってオーリィの袖を掴んで訴えているが、オーリィにはその行為さえも裏切りの対称だと思ったらしく、それでもそっと彼女の手を袖から離した。

そして私の方へと顔を向けると、酷く落ち込んだ様子で私をギュッと抱きしめてきた。

「………、疑ったりしてごめん。僕はどうしてこんなに大事な幼馴染を疑ったりしちゃったのか…本当にごめん!!」

心からの悲痛な叫びに、私は首を横に振ることしか出来なかった。

ポロポロ涙が零れ落ちて言葉にならないのだ。

が理由も無く人を殴るなんて有り得ないのは僕が一番分かってたはずなのに…。が僕に嘘をつくはずが無いのを分かっていたはずなのに…。何よりも…僕のことを一番に考えてくれるのはだって知ってたはずなのに…本当に……本当にごめん!!」

「な、何よ!オーランドは私よりその子が大事なのね?!」

「………」

「もういいわッ!私の方から別れてやる!!こんなもの!」

カツーン

レイヤは何かを投げ捨てたのか金属物の音がしたので、彼女が走り去った後、オーリィの腕から開放されてから辺りを見回すと、近くには金の指輪が落ちていた。

「オーリィ…これ…」

「……僕がレイヤの誕生日に買ってあげた指輪だ…。でも、もう良いんだ…」

指輪を手に取ったオーリィは、寂しそうに指輪を見つめた。

…僕は本当にレイヤを愛してたんだ…。レイヤも僕を愛してくれてると思ってた。自惚れてただけだったんだ…」

今にも泣き出しそうな顔でポツリと呟いたオーリィは、撮影前の元気なオーリィとは全く別人だった。

「自惚れなんて!そんなことないよ?」

「でも、実際レイヤはマイケルを愛していた。僕はただ利用されていただけだ。レイヤの名声のためだけに」

さすがにそう言われると言葉を無くしてしまい、私は何も言えずにいた。

「…」

「…」

「もう、ほら!ウジウジしないで!オーリィだったらまたすぐに良い人が見つかるって!ね?」

私が無理矢理明るくそう言ったところでどうにもならないだろうと思っていたが、案外どうにかなったみたいでオーリィは顔を上げると私を見つめてきた。

「…そう…だね…僕にはがいるし…」

「へ?」

ちょっとちょっと、何を言い出すんですか?

「立ち直ったらちゃんとのこと考えるよ」

「え…?……え?」

私はオーリィが一体何を言おうとしているのか全く理解できずに、瞬きするのさえ忘れていた感じだ。

考えるって…何を?

立ち直ったら?

私のこと…?

私の何?




「だっては小さい頃から僕のことが好きだったんでしょ?だから幼馴染としてじゃなく、女性としてちゃんと考えるよ」





「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええ?!?!?!?!?!」




たった今私の大好きなオーリィが一つの恋を終わらせたばかりなのに…私はそれすらも吹っ飛びそうなほどオーリィの言葉にビックリしてしまった。

だってそれって…私にもオーリィとの人生があるって考えて…いいのよね?

私はその後は当分オーリィの顔がまともに見られなかった。

何故って?

それはね、さっきまでジンジンと痛かった右手が今はオーリィの手に包まれてとても暖かかったから。

そしてさっきまで棘だらけだった心が、泉が澄み切ったように穏やかだったから…かな?

私は決してこの手を離さない。

決して………。





                 END




あとがき

めっさ久しぶりに書きましたので、何が何やら;
3時間半で仕上げたため、何だか意味の分からない箇所があったらスイマセン(苦笑)
今までずっとスランプ状態で、パソコンの前に座っても全く書けなかったのですが、久しぶりに気分が乗ったので一気に書き通しでした。
9月から全く手を付けられず、ブログの方も書くことはたくさんあるのに何故か気が進まずにそのままパソコンを閉じること2ヶ月。
そろそろまた復活しようかと思ってます。2ヶ月も放置していた私のサイトに足を運んでくださり、その上拍手までしてくださった方には本当に涙が出る思いです。
また細々と書いていくので、時々で構いません。遊びに来てやってください。
それでは。。。            日浦 華蘭




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