「…」
「はぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「だぁぁぁぁーーーーーッ!!!鬱陶しい!!!お前はさっきからずっと溜息ばっかりじゃないか!」
僕はソファに寝そべりながら特大な溜息をつくと、テーブルを挟んで向かいに座り新聞を広げていたヴィゴから罵倒を浴びせられた。
「大体なぁ、お前は最近そのわざとらしい溜息が多すぎるんだ。世界の恋人ともあろう男がそんな溜息ばっかりついてたらファンは何があったのかって心配するぞ?」
「ふん。俺だって溜息くらいつくさ。それに本当に「世界の恋人」だったらきっとこんな想いはしないって…;」
僕は頬をプクッと膨らませながら反論するとまたしても今、僕の心の半分以上を占めている「」のことを思い出してしまった。
とは、僕が「ロードオブザリング」の撮影のときに衣装係をやっていた日本人の女の子だ。
とっても明るくて、あちこちへとよく動き回っていた彼女。
監督やキャストはもちろん、他のセクションの人たちからもとても可愛がられてた彼女はどこへ行っても注目の的。
そしてを狙おうとする狼の数は数え切れず…といったところか。
………まあ、例に漏れず僕もなんだけどさ。
撮影当初はそれこそ男性陣なんて「マリアみたいなセクシー美人と付き合ってみたいな〜w」やら「キャサリンのあのグラマーなところが堪らない!」なんて良いながら、スタッフの中で誰が人気かランキングまで作っていたのに、撮影開始してから半年も経った頃にそのランキングの上位に必ず入るほどのマリアが妊娠したとして、産休に入ったのだ。
そしてマリアの代わりに撮影に途中参加してきたのが「」だった。
最初は「中学生が紛れ込んでる」なんて言われるくらい幼く、ほとんどの男性は「マリアに帰ってきてほしい」と思っていた。
が、しかし。
1日経ち、3日経ち…1週間も経つころには以前までのランキングが全て変わっていた。
名づけて「のどこが好き?ランキング」になっていたのだ。
しかし、どんな男が交際を申し込んだところでから返ってくる返事は「NO」。
しかも相手を傷つけず、嫌な思いをさせない断り方だそうだからまた手強い。
僕は他の男に先を越され、が誰かと付き合ってしまうんじゃないかという不安と、それでも告白して振られたらどうしようという恐怖から、未だに「友達」の一線から踏み出せないでいるのだ。
このまま「友達」でいればいつもみたいに食事に誘ったり、ショッピングに誘ったりして会うことはできる。
でも、もし告白して振られてしまったら?
もう今までのようには会えないだろう…少なくとも僕は会えない。
付き合いたい、でも怖い。でも付き合いたい…。
僕の頭の中では常にこの堂々巡り。
だから人生の先輩で、恋の達人でもあるヴィゴに助言してもらおうとオフの日にわざわざヴィゴの家までやってきたのだ。
しかし、そもそも僕が女の子のこのことで悩むことなんて今までないに等しく、それ故こんなに誰かを好きになったことなんてそれこそ僕の人生で初めてのことだったのだ。
目が一瞬でも合おうものなら飛び跳ねそうになるくらいドキドキして、その後には胸がキュゥッと締め付けられる感じがするのだ。
が他の男と仲良く喋ってるのを見ると何だか気分が悪く、いつまで経ってもその光景が頭から離れずにどす黒い自分の感情が湧き上がってくる感じがした。
ヴィゴに「そいつは『嫉妬』ってやつだ」と言われた時にはビックリした覚えがある。
今まで1度だってこんな感情が沸き起こったことがないと言うことは、やっぱり今まで付き合ってきた女の子たちはそれほど好きではなかったのかもしれない。
だからこそ本気で好きになった女の子にどうやって接したらいいのか分からなくなるのだ。
いくら勇気を奮い立たせても、を前にすると脆くも崩れ去り、気の利いたセリフすら言えないなんて…。
「……。おい、オーランド。お前はずっとここでそうしてるつもりか?」
急にヴィゴが読んでいた新聞を閉じてテーブルにパサッと置くと、じっと僕を見据えてきた。
ヴィゴには『眼力』と言うのがある気がするなぁ…。
なんてのん気に思いながらもその視線が怖くてソファに寝そべっていた僕は姿勢を正してソファに座りなおした。
「ご、ごめん;」
僕は素直に謝ると、ヴィゴはふぅっと息をついた。
「お前は今日、何しにここへ来た?」
「そ、相談をしに…」
「それで?お前が来てもう3時間は経とうとしているが…一つでも相談した覚えがあるか?」
「…あ、ありません…;」
「……相談する気がないなら―――――」
「あるもん!!相談する気は満々なんだよ?!だけど…」
「だけど…何だ?」
ヴィゴは僕の勢いにビックリしながらも、声のトーンを変えずに聞いてきた。
「だけど…何を相談したらいいのか分からないんだ…。頭の中でいろいろ考えちゃって…ごっちゃになってるから、何から相談したらいいのか分からないんだよ…」
僕は俯きながらポツポツ喋ると、ヴィゴは「はぁ〜」と溜息をついた。
「お前が悩んでる内容が分かるからこそ今までお前が相談してくるまで待ってたが…どうやら私はもう少し早く手を差し伸べてやるべきだったか?まぁ、いい。ようはお前が言いたいのはのことでどうしたらいいのかってことだろう?」
ズバリと核心を突いてきたヴィゴにビックリして僕は目が点になってしまった。
どうして分かったんだ?!
僕は何も言ってないのに!!
本当だよ?今まで1度だって誰かにのことを相談したことなんてなかったんだ。
それなのにどうしてヴィゴは知ってるんだ?
「んなッ!えッ?うあッ…ど…どうして…お、俺が…その……のことでって…」
段々と顔が赤くなっていくのが分かる。
そして頭の中が混乱して、自分が何を言っているのか分からなくなってきた。
「お前は単純だからな。いつも一緒にいたんだ。お前の気持ちくらい気が付くさ。だから話してみろ」
ヴィゴは呆れた顔をしながらも、しょうがないなといった感じで僕の話をずっと聞いてくれていた。
僕は全部話し終えると、少し頭の中がスッキリして何だか気持ちが軽くなった。
ヴィゴはいろいろアドバイスをくれたが、肝心の告白するべきかどうかの相談については「それは自分で考えろ」と切って捨てられてしまった。
でも、今まで誰にも話してこなかった「自分だけの秘密」を聞いてもらえて、これからは何でもヴィゴに相談できると思うととても心強く感じる。
やっぱりヴィゴって大人だなぁ〜…ヴィゴに相談して良かった。
僕は相談のお礼にとヴィゴを飲みに誘ったが、何故かげんなりした様子で断られてしまった。
そしてヴィゴは「少し寝るからお前はもう帰れ」と言って僕を家から追い出したのだ。
ヴィゴの家からの帰り道、僕は少しさびれた感じのバーを見つけ、迷わずに扉を開ける。
ここは初めて入るバーで、外装とは打って変わって店内は結構お洒落な感じで少々面食らった。
「いらっしゃいませ」
マスターらしき人物がドアの前で突っ立ってる僕を見て「どうぞ」とカウンター席へと促す。
僕は席につくと、ビールを頼んだ。
すぐさまグラスごとキンキンに冷えたビールが目の前に置かれ、一気に半分ほど喉へと流し込む。
何だか生き返った感じだ。
今だったら冷静に物事を考えられるかもしれない。
そう思った瞬間、先ほど僕が入ってきたドアが開き、見慣れた人物の姿が目に入った。
「?!」
僕は座っていた椅子をひっくり返しそうなほどの勢いで席を立ち、から視線をはずさずにいた。
「オ、オーリィ?!どうしたの?!こんなところで!」
も相当ビックリしたのか、大きな綺麗な瞳をますます大きくして近寄ってきた。
「あ、僕はえっと…ヴィゴの家に行った帰りで…ちょっと飲みに来たんだ。は?一人?」
僕はさりげなく聞いたが、はニッコリ微笑みながら「ええ、私も飲みに来たの」と言って僕の隣の席に座った。
のことを少し冷静になって考えようとしていた矢先にと出逢うなんて、僕はどうしたら良いのか考えもつかず、とりあえず落ち着こうと席について残りのビールを一気に飲み干した。
「わッ!オーリィって結構飲める人?」
クスクス笑いながらは何かカクテルを注文すると、僕の分のビールも一緒にオーダーしてくれた。
何て気が利くんだ…と感動しながらも、僕は「飲めるって言っても普通にだよ?リジィみたいに大酒のみじゃないからね」とおどけて見せた。
「へぇ、でもリジィはお酒強そうだもんね〜」
「うん。あいつは本当に強いね。いつもリジィだけが最後までシラフな感じだもん。しかも人一倍飲んでおいて」
「アハハ。そうなんだ。でも、何かオーリィたちの飲んでる姿って想像できるなぁ。みんな個性豊かで面白い人たちばっかりだから楽しそう♪」
「まあ、ドムやビリーがいて楽しくないときはないね!あ、そうだ!今度もおいでよ!みんな喜ぶと思うし―――って言うか僕が来て欲しいかなぁ…なんてさ」
僕はさりげなく最後に付け加えてを誘ったが、は多分気が付いてないようで、サクッと切り捨てて「じゃあ、今度キャサリンたちと一緒に行こうかなw」なんて言っている。
僕たちはそれから他愛のない話に花を咲かせ、数時間が経っていた。
僕もも酔いが回っているために話が尽きなかったのだが、の口から「恋愛」と言う言葉が出た瞬間に僕は一気に酔いから醒めてしまった。
「え?何?ごめん、今の聞いてなかった」
僕はに聞き返すと、は嫌な顔せずに「だからね」と話し出した。
「私は恋愛ってそんなにしたことがないから、ここに来てどうしてみんな私に告白してくるのか分からないのよ。だってそうでしょ?こんなちっぽけな日本人の私が、どこをどう見たら『可愛い』って思われるのか理解できないわ。私が可愛いなら、日本の女の子はみんなもっと可愛いわよ?」
少し目が据わってきたは、眉間にしわを寄せながら今の現状が理解できないと頭を抱えている。
「。きっとみんなはの外見だけで『可愛い』って言ってるんじゃないと思うよ?がこれだけみんなに好かれるのはの性格も踏まえて全てを『可愛い』と思ってるからだ。女性スタッフですらには一目置いているじゃないか。彼女たちものことが可愛くて仕方がないんだよ」
「でも…」
「はとても魅力的な女の子だよ?それは僕が良く知っている。だからそんなに自分を卑下しないで?もっと自分に自信を持たなきゃ!」
僕は熱く語っていたことにハッと気が付き、顔が赤くなるのが分かった。
危ない!この勢いで告白してしまいそうだった。
酔った勢いとかで告白なんてしたくない。
それにもし今告白したところで、明日になってが覚えているかどうかも怪しいなんて、それこそごめんだ。
「オーリィ…でも、どうしたら自信がつくの?私は「君が運命の人だ」って言われても、相手に運命を感じなかった。だからみんな断ってきたけど、私が「運命の人だ」って思ってた人は同じように感じてないわ」
「……………え?」
僕は何かが崩れ去ったような、頭を鈍器で殴られたようなとてつもない衝撃が脳内を駆け巡った。
少なくとも今の一言でには好きな人がいることが分かった。
そしてそんなことを僕に話すと言うことは…その相手が僕ではないんだってことも分かった。
告白する前に玉砕。
まさかこんなことになるなんて…。
僕は未だに何か喋っているの声を聞けずにいた。
僕はその日、どうやって家まで帰ったのか覚えていなかった。
次の日になっても何もやる気になれず、快晴な青空とは反対に僕の心は雨嵐。
暴風雨注意報が出されそうなほど荒れている。
撮影時は何とか振り切って役になりきったが、それでもNGを数回出してしまうと言う結果だった。
撮影が終わって自分のトレーラーに戻る途中、に声をかけられた。
振り返ると、笑顔でこっちに走ってくるの姿が見える。
その姿にドキッとするも、僕の想いは届かないということも再認識させられる。
「オーリィ、昨日はありがとう!楽しかったわ。また一緒に飲みに行きましょうね!」
そう言っては足早に僕の元から去っていった。
「はぁ〜;きっとこれが恋わずらいってやつかな;」
玉砕してもなお、が好きで堪らないのだ。
僕はドキドキを抑えつつ、トレーラーへと歩いていった。
そしてまた新たに目標を変えたのだ。
『僕の運命の人がなら、の運命の人を僕にすればいい!』
告白云々より、まずは僕のことをもっと知ってもらおう!
僕はそう心に決めたのだった。
END
あとがき
何だか前半は全くヒロイン出てきてませんね;しかも出てきてもたいした交わりがあるわけでもなく;
まあ、今回はオーリィの初めての片思いって感じでどうしたらいいのか分からない!ってのを書きたかったので、お許しください(てへ)
しかし、最近久しぶりに書き始めたので本当にダメダメですね;言葉が出てこない。
いわゆる「アレアレ病」です。「あ〜、アレなんだっけ…。ほら、アレだよアレ」みたいな会話がしょっちゅうです;
きっと脳内年齢がとっても衰えてきているんでしょう;嫌だな;
ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます。またこれからも細々とやっていくのでヨロシクですwでは♪
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