「う…ん…」
「メアリー?!私よ?分かる?」
「……様?…あれ?私…どうして…?ここは一体?」
段々と意識がはっきりしてきたのか、今まで気を失っていたメアリーはゆっくり体を起こして回りを見渡すと、不思議そうに尋ねてきた。
「ここはゴンドールのミナス・ティリスよ?偶然通りかかったボロミア様が助けてくださったの。でも、メアリー…本当に無事で良かったわ!貴女に何かあったら私…」
私はメアリーにそこまで説明すると、涙ぐんでしまった。
「様?!そんな、私の為に涙なんて…様こそ無事で何よりです!命に代えても様をお守りしたいと思っていました。それなのに実際あんな状況になってみると、私は何の役にも立てず…」
「そんなッ!私はメアリーに守ってもらおうなんて思ってなかったわ?私は自分の命も大切だけど、メアリー、貴女のこともとても大切だと思ってるの。だからそんなことは言わないで?」
「…ッ!!様…。ありがとう…ございます…」
メアリーまでもが涙ぐみ、私たちがいる部屋は少し湿った雰囲気になった。
「あら?様…何だか少し顔色が…よろしくないのでは?お具合が悪いのですか?!」
「…え?だ、大丈夫。少し疲れているだけよ?」
メアリーの突然の指摘に、私は少し肩がビクッと震えたが、何とか誤魔化した。
『熱が出るだろうから管理はちゃんとしておいた方がいい』そう言っていたボロミアの言葉が思い出された。
そう、確かに疲れも祟ってか、私は熱が出ている。
しかし私は何とかそ知らぬ顔をして誤魔化したのだ。
と、そこへ扉をノックする音が聞こえたので私は部屋の入り口へ行き、扉を少し開けると、そこにはこの王宮の侍女らしき少し年配の女性が優しく微笑みながら立っている。
「メアリー様は目を覚まされましたでしょうか?部屋の前を通りましたら少し話し声が聞こえましたもので…」
「あ、はい。つい先程目を覚ましました。ご心配をおかけしました…」
「いえいえ!そんな、様が頭をお下げになんてならないで下さい!あ、それと、湯浴みのご用意が整っておりますので、入られたらいかがでしょう?ゴンドールに着いてから軽くお着替えなさっただけではありませんか?」
そう言われて気がついたが、確かにゴンドールに着いてからは血まみれの服を着替えさせてもらっただけで、メアリーを心配するあまり土埃っぽいことすら忘れていた。
「言われてみれば確かに…。では、遠慮なく入らせていただきます。あ、少し待っててください」
私はメアリーの所へ戻った。
「メアリー、歩けるかしら?今、湯浴みの用意をしてもらったから一緒に入りましょう?」
「湯浴みですか?!はい!ずっと入りたかったから嬉しいです!」
「本当ね?何日ぶりかしら?うわッ!メアリー、ふらふらしてるけど本当に大丈夫?」
ベッドから抜け出して歩き出そうとしたメアリーは、よろめいて転びそうになるのを私は慌てて抱きとめた。
「ご、ごめんなさい!!少し立ちくらみをしてしまって…。でも、大丈夫です!ありがとうございます」
メアリーはそう言うと、確かに今度はしっかりとした足取りで歩き出す。
そして私たちは浴室がある場所まで先程の侍女に連れて行ってもらい、湯浴みを手伝ってくれるという侍女たちがいたのだが、彼女たちには悪いが下がってもらうことにした。
「では、様のご命令どおり侍女たちは下がらせますが、お召かえはこちらに置いておきますので、こちらをお召しになって下さいませ」
「すいません。ありがとうございます」
「いえ。では、失礼致します…」
先程の侍女、名前はライラと言うらしいが、彼女が出て行くと私はフゥと息を吐き出した。
「様?本当に私も一緒に入ってよろしいのですか?私は様の後で結構ですよ?」
少しビックリした様子のメアリーは、困惑した表情で私に聞いてくる。
「いいのよ。久しぶりに一緒に入りましょう?メアリーと一緒に湯浴みするなんて、幼い頃の1度きりじゃない?」
私はクスクス笑いながら着ていた服を脱ぎ始めた…と言っても羽織っていたショールを取ると肩の上でパチンと止まっているだけのロングワンピースだったので、何の苦労もいらなかった。
「ちょッ!!様?!な、何なんですかこれは?!いつこんな怪我を?!」
私が脱いだ瞬間にメアリーは私の左腕の包帯を目敏く見つけた。
「あ…これは―――」
私は話が長くなるからと、メアリーに諭して浴室に入ってから今までの経過を全て詳しく話して聞かせた。
「そういうことだったんですね…。本当に良かった…。様が無事で本当に良かった…ッ」
メアリーはそう言うと、安堵の表情を見せた。
「そうなの。だからまだゴンドールの執政であるデネソール候にはご挨拶が出来てないのよ…。後で行って来るわね?」
湯浴みを終えて、置いてあった大きな布で体を拭き終えると、ライラが置いていってくれた服の隣に薬草と包帯が置いてあった。
それをメアリーが横から取ると、ニコッと微笑んで「私が…」と薬草を私の左腕の傷口に塗る。
「痛ッ!」
「ダメですよ!さ、お貸しください」
痛さのあまり、私は顔を顰めて左腕を引っ込めてしまったが、メアリーは容赦なく私の左腕を優しくだが引っ張った。
そして手際良く包帯を巻きつけてくれたのだが、私はいまだにジンジンする腕を右手で押さえる。
すると、包帯の上からでも分かるくらい傷口が熱くなってるのが分かった。
私自身熱が出ている為、手が熱いのは分かっていたが、それにしてもやけに傷口は熱い。
私はその熱を振り切るかのように、手早く用意されていた洋服に着替えた。
その洋服はベーシュ色の少し大きく肩から胸元が開いている、ロングドレスのようなものだった。
腰の横辺りに片方ずつ紐が出ていて、それを引っ張るとキュッと腰が締まり、余った長い紐は後ろで結ぶ形になっている。
袖が長いため、包帯が隠れるので助かったが、何だか腕の途中から袖口に向けて段々と広がっていて、垂れている袖先はシュッと尖っていた。
「うわぁ…様…素敵ですッ!まるでエルフの姫君のようですわ!」
そう言ってメアリーは嬉しそうに両手で口元を押さえている。
「な、何言ってるのよ;私がエルフなんて…;本当のエルフの姫君に失礼よ?」
私は苦笑気味にメアリーにそう言えば、メアリーは頬を膨らませた。
「様は本当に美しいんです!!ご自分を卑下なさることはこれっぽっちもないのですよ?!もっとご自分に自信を持って下さいませ!」
と、何だかメアリーは興奮したように私の事なのに力説していた。
しかし、いくらメアリーがそう言ってくれても、さすがに自分がエルフに勝るなんて思えないし、自分に自信なんて持てるわけがない。
女性はいつだってもっともっと綺麗になりたいという、向上心を持っている。
私が1番自分に自信があって、自分自身が綺麗だと思っていたのはとうの昔。
「彼」を亡くしてから、そんな向上心は綺麗に消え去っていた。
『がこの世で一番可愛いよ?』
彼のこの言葉が聞きたくて、お化粧も頑張った。
綺麗になる努力をたくさんした。
もっともっと愛して欲しいから…。
でも、その愛して欲しいと思っていた彼はもういない…。
「ッ?!様?!も、申し訳ございませんッ!!私…思い出させてしまいましたか?あぁ、様、泣かないで下さい…」
私はメアリーの慌てふためいて発した言葉で、今自分が泣いていることに気がついた。
「…ごめんなさい。そうじゃないの。大丈夫よ…?気にしないで?」
指で涙を拭うと、オロオロしているメアリーに微笑んだ。
「私が勝手に思い出してしまっただけだから…。それより、早く出ましょう?」
私はそう言って促すと、メアリーは申し訳なさそうに私の後をついてきた。
浴室から出ると、ずっと待っていたのか、ライラともう一人の侍女が立っていた。
「様、お待ちしておりました。デネソール様が王の間にてお待ちしております。このままご案内いたしますのでこちらへどうぞ。メアリー様はこの者がお部屋までご案内致します」
私はそこでメアリーと別れると、ライラについて廊下を歩いていった。
途中で数人すれ違ったが、みんな私に会釈をして通り過ぎていく。
そして大きな扉の前まで来ると、ライラは扉の前に立っている護衛に合図をする。
「様、私はここまでになります。進んで行きますとデネソール様がいらっしゃいますのでご挨拶をなさってください。それでは失礼致します」
ライラはそれだけ告げると、戻って行ってしまった。
そして目の前の扉が開いたので進んでいくと、玉座の下にある席に座っている人物が目に入った。
(あの方がデネソール候ね…)
何だか厳しい顔つきで私が歩いてくるのを見ている。
パッと見た感じ、怒っているみたいだ。
デネソール候の前まで来ると、私は深くお辞儀をした。
「お初にお目にかかります。ローハンのセオデン王より使わされましたヒューイの娘、にございます。この度はご挨拶が遅れてしまいましたことを、お許しください」
「うむ。、お前のことは聞いている。森でオークに襲われていたとな?」
「…はい。襲われていたところをデネソール様のご子息、ボロミア様とファラミア様にお助けいただきまして、今ここに命を持って立っているのであります」
「そうか…無事で何よりだ。さて、早速だが、お前は1週間のみの滞在を希望しているようだが、それは真か?」
きっと聞かれるだろうと思っていた事を、思っていた通りデネソール候は聞いてきた。
「……はい。申し訳ございませんが、私には…忘れられない大切な人がいるのです…」
「しかし、その男は戦で亡くしたのであろう?」
「ッ!!」
「全て聞いておる。だが、それを聞いてもお前にはゴンドールに来てもらいたかった。無理を言ったのはセオデンではなく、この私だ」
「な、何故です?!」
思わず聞き返してしまったが、デネソール候は気にもせずに話を続ける。
「私も昔に妻を亡くした。愛するものが目の前で息絶えるのを見たのはそれは耐え難いものだった…。しかし、残された人間は、それでも必死に生きなければならない。また違う目標を見つけ、それに向かって努力しなければ…。セオデンからお前の話を聞いた時、そんな昔の自分を思い出したのだ。だから何とかしてやりたいと思った。1度ゴンドールを…この白く輝くゴンドールを見て、少しは気持ちを軽くしてやろうとここへ呼んだのだ」
私はデネソール候の言葉に目頭が熱くなった。
「デネソール様…ありがとうございます…。そのお気持ちを聞かせていただき、とても嬉しく思います。こんな、話だけの見ず知らずの私なんかをゴンドールに呼んでいただいて、光栄です」
「うむ。しかし、お前を呼び寄せた理由…つまり、縁談の話も事実だぞ?」
「え?」
「私の息子ならお前を幸せにするであろう。そうであろう?ボロミア」
デネソール候は私の後ろをチラっと見たので私はバッと振り返ると、そこにはボロミアが立っていた。
「父上も気が早い。しかしそうですね。私ならを幸せにしたい。いや、幸せにしますよ」
「そうか、それなら安心だ。ボロミア、とりあえずが滞在する1週間のお前の執務はファラミアに任せる。その間、お前はに色々な所に連れて行ってやったり、教えたりしてやるといい」
「はい。お任せを」
何だか私がいるにも関わらず話がどんどん進んで行き、間に挟まれた私は口を挟むことも出来なかった。
「では二人とも、下がってよい」
「はい、失礼します」
デネソール候に言われ、ボロミアはすぐに礼をして私の右腕を軽く掴んだ。
「行くぞ?」
「え?あ、はい!――デネソール様、失礼致します」
私は慌ててデネソール候に頭を下げると、ボロミアに連れられて廊下に出た。
「はぁ〜〜〜;;;緊張した;;」
私は大きな溜息をつきながら立ち止まると、ボロミアも立ち止まった。
「アハハ。確かに父上はいつもしかめっ面だから怒ってるように見えて、初めての者は緊張するだろうな。それより、やっぱり熱、出てきたな…」
「え?」
「腕、掴んだ時熱かったから。どれ?」
「ッ!!」
熱があるのを分かってくれたのは分かった。
しかしこの状況はいったい何?!
私は思わずギュッと目を瞑ってしまった。
と言うのも、頭一個分くらい背の高いボロミアを見上げていたのに、急にボロミアの顔が近くなったかと思ったら額と額が合わさった。
…という事は…息のかかる距離にボロミアの顔があるわけで、私は思わず目を瞑ってしまったのだ。
「すごい熱だな…って、何もそんなに力強く目を瞑らなくたっていいだろう?」
ボロミアの顔が遠のいたのが分かると、私は恐る恐る目を開けた。
そして目の前には苦笑気味のボロミアがいる。
「だだだ、だって急に貴方の顔が近づいてくるからつい…」
「ハハハ。そんな真っ赤な顔してると本当にキスするぞ?」
「なッ///!!」
「されるって思ったんだろう?」
「お、思ってません!!」
私はボロミアがからかっているのだと分かって、頬を膨らませてふいっと横を向いた。
「まあまあ、そう怒るな。ほら、こっちを向けって」
肩を掴まれ、私はボロミアの方を向いた。
目が合った、その瞬間にボロミアは素早く私の唇にキスしてきた。
「ッ!!!!!!何するのよ!!」
バチンッ
「痛ッ!何も殴らなくてもいいだろ?!」
そう、私は思わずボロミアの左頬を思いっきり引っ叩いたのだ。
「あ、貴方が変なことするからでしょ?!」
ボロミアは左頬を擦りながら抗議の声を上げたが、私はもちろん受けつけなかっ
た。
「変なことって…っておい!大丈夫か?!」
「え…?」
私は急に興奮して息が上がったせいか、何だか視界が歪んでいくのが分かったが、段々と意識が朦朧として遂には倒れてしまった。
次に起きたのは3日後だった。
「様!お目覚めですか?!メアリーです!分かります?」
眩い光が視界に入ってきて、その光に徐々に目が慣れると、私の顔を覗き込んでいるメアリーが見えた。
「メアリー…。私…倒れちゃったのね?折角解熱剤頂いて飲んでたのに…;」
「ボロミア様が凄い形相で様を運んでいらっしゃった時はビックリしましたが、やっぱり疲れが溜まっていたのもあって薬が効かなかったんだろうってお医者様に言われ、命に別状はないって分かると安心したのかへたり込んでしまったんですよ?」
メアリーはクスクス笑いながらその時の状況を教えてくれた。
しかし、私は「ボロミア」と聞いて心臓が跳ね上がるかと思った。
そう、キスされたのははっきりと覚えてる。
何故あんなこと?!
あの時の事を思い出し、私は怒りが込み上げてきた。
「メアリー、そのボロミア様はどこへ?」
少し嫌味っぽく言ったのだが、メアリーは気がついてくれない。
「ボロミア様は今、様の為にフルーツを取りに行ってます。もう、戻ってきますよ?」
「え?フルーツ??」
私は聞き間違えかと思って、聞き返してしまった。
だって私は今まで眠っていたのに、どうしていつ起きるかも分からない私にフルーツなんて?
そんな事を考えていると、部屋のドアが開いた。
そして私が目を覚ましたのを見つけると、驚いたように足早にベッド脇に近寄ってきて、持っていた大きなお皿に入っているフルーツの盛り合わせを近くのテーブルに置くと私の額に手を当ててきた。
「キャッ!ちょ、ちょっと!貴方には前科があるんだからあんまり私に近寄らないでもらえます?」
「熱が引いた!良かった!いや〜、が目の前で倒れたのにはビックリしたぞ?しかも3日も眠っていたからな。どうだ?お腹はすいてないか?今消化の良いフルーツを持ってきたんだが…ん?どうした?」
「…今の私の話聞いてました?」
「へ?何か言ったか?」
「……(怒)」
本当に聞いていなかったのか、はたまた本当は聞こえていたのに聞こえてないフリをしているのか…。
とにかく私は沸々と込み上げてくる怒りを静めようと、ボロミアから視線を逸らした。
「おい、?何をそんなに怒ってるんだ?こっちを向けって…」
「………」
ボロミアは少し困惑しながらそんな事を言ってくるが、私はお構い無しに無視した。
「、一体どうしたって言うんだ?俺が何かしたか?俺は別に何も―――」
「してないって言うんですか?!私は覚えてるんですッ!何故あんなことッ」
私が怒って睨みつけながらそう言うと、一瞬本当に分からなかったのか「え?」という顔をしたが、すぐに思い出したようにポンッと手をついた。
「ああ!もしかして廊下でのことを言ってるのか?」
「当たり前でしょ?!私はッ――」
「すまないッ!そんなに怒るとは思わなくて…;あの時は顔を赤くしたが…その…」
「なんです?」
「か、可愛かったから…つい…」
「ッ///!!!ななな、何を言い出すんですか?!そ、それにボロミア様は可愛いと思ったらすぐにあんなことする方なんですか?!」
「違うッ!!あの時はだったからそう思ったんだ…ッ!!……信じて…もらえないだろうか?」
とぼけた顔をしてみたり、困った顔をしてみたり、顔を真っ赤にしてみたり、かと思ったら今度は青くなったり…。
ボロミアは最後に情けないような顔をして、私を見ている。
そんな顔されたら怒るに怒れないじゃない…。
「…もういいです。忘れてあげましょう!。だから…そこのオレンジ、取っていただけます?」
私は苦笑気味にそう言って、ボロミアが持ってきてくれたフルーツの盛り合わせを指差した。
すると、ボロミアは安心したように慌ててオレンジを取ってくれた。
私は食べやすいように切ってあるオレンジを口に含むと、今まで3日間何も口にしてなかった為か、果汁が体全体に広がっていくような感じがする。
「ん〜、美味しいw」
次々と口に運ばれていくフルーツを見て、ボロミアは笑顔になる。
「フルーツもいいが、他に何か栄養があるものを食べた方がいい。今持ってくるから少し待っててくれるか?」
ボロミアはそう言って席を立ったが、今までボロミアの後ろにいたメアリーがすぐさま、それを制した。
「ボロミア様、私が持ってまいりますので、お座りになってて下さい」
メアリーに微笑まれてそう言われれば、「それでは頼もうか」とまたベッドの傍らにある椅子に腰を下ろす。
「私は…私がこうして眠っている間、1週間のうち3日を無駄にしてしまったんですね…」
「え?」
「そのうえ、こんな状況じゃすぐに起き上がって動き回るのも難しいし…。ゴンドールをたいして見れずに終わりそうですね…;」
私はふと、そんな事を思って独り言のように呟いた。
「…だったら滞在期間を延ばせばいいじゃないか?そんな、無理して1週間で帰ることはないだろう?俺だってにゴンドールの良い所にいっぱい連れて行ってやりたいし。それに…もっとのことを知りたい…」
「で、でも私は…」
「忘れろとは言わない…。でも、昔にしがみついて今を見失ってはきっと後悔するぞ?」
「…ッ!!」
「すまない…。父上に大まかな事を聞いて、メアリーにも少し聞いたんだ…。カランがどれだけ辛い思いをしてきたか、想像することしか出来ない…。だから俺にはこんなことしか言えないけれど、には前を向いて生きて欲しい…」
「…誰にも分からないわ…」
「え?」
「私の気持ちなんて、誰にも分からないのよ。私も心では分かってるんです。でも…ッ!!」
私は彼の事を思い出し、胸が張り裂けそうになった。
分かってるのよ?
いつまでも彼の影を追いかけて生きるのはいけないって…
彼はきっとこんなこと望んでないって…
「…。明日にでも、外の空気を吸った方がいい。俺が良い所に連れて行ってやる。どうだ?」
ボロミアは気遣ってくれたのか、優しい言葉をかけてくれる。
そんなボロミアの気遣いを嬉しく感じ、少し迷った末に頷いた。
それを見たボロミアも、嬉しそうに微笑み、私の頭にポンッと手を置いてから立ち上がると、「また明日来るよ」と言って部屋から出て行ってしまった。
そしてボロミアと入れ替わってメアリーがトレーを持って入ってくる。
「あら?ボロミア様はどうされたんですか?」
今までいたボロミアの姿がないのを不思議に思ったのか、キョロキョロしながら辺りを見回し、最後に私を見つめる。
「うん。また明日来るって…。今さっき出て行ったわ?」
「そうですか…。お礼を言いそびれてしまいました;」
「え?お礼?」
「ええ、実は今様のお食事を用意しに行ったら、ライラがこの薬も持たせて下さったんですが、この薬はボロミア様が様の体を気遣って用意してくださった物らしくて…。だからお礼を、と思ったんですがいらっしゃらなかったもので…」
ボロミア………
何故そこまで私なんかの事を気にかけてくださるの?
私はローハンに帰ってしまうのに…
私はメアリーが持ってきてくれた消化の良さそうな野菜スープを一口も残さずに平らげ、最後にボロミアがわざわざ用意してくれた薬を一気に水と一緒に喉の奥へと流し込んだ。
「うっ…にが…;」
「お薬は甘くないですからね。さ、それを飲み終わったらまた一眠りしてくださいよ?様には早く良くなっていただきたいですからね!」
メアリーはクスクス笑いながらお皿を下げて私を布団に入れる。
私は3日間寝ていたんだからもう寝れないでしょ…と勝手に思っていたが、寝すぎで眠くなるのか、自然と瞼が閉じていった。
あとがき
えー、未だに「彼」の名前は出てきません(笑)きっとこのままずっと出てこないかもしれないな〜。
さて、ボロたんですが…手つけるの…早くね?(汗)
少し悪戯心が湧いたボロたんでも、チューしてくれるなら許す!!!(←アホ)
そして少し慌てふためくボロたん…可愛いwこっちからチューしたくなるぜッ!(……やめろ)
だけど、いつも口調は悪く言えばぶっきらぼう。良く言えばクールなボロたん。
これがなかなか曲者で難しいですね〜;ってか、小説書くこと自体私にとって難しいことでもあるんですが(苦笑)
もっと文才があればなー…と、しみじみ思います…。
他の尊敬するサイトさんに遊びに行っても、本当に感動しますもん。羨ましかーッ!!
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