「…う…ん…――メアリー…今は朝…?」
私は徐々に目が覚め、側にいるだろうメアリーに声をかけたが、メアリーからの返事はなかった。
「…?メアリー?…いないの?」
上半身を起こしてメアリーの姿を探したが、私のいる部屋には私以外の気配がなかった。
「なんだ…、いないんだ…」
どこに行ったんだろう?
と言うか、今は一体朝なの?
それとも夜?
あ…テラスに出れば分かるかな?
私はゆっくりとベッドから出ると、素足のまま隣の部屋にあるテラスへと出た。
「…朝…方…?こんなに静かなら夕方ってことはないわよね?」
自分に問いかけながら空を見ると、まだ朝日が昇っていないために群青色の空がどこまでも続いている。
何となくもっと広い場所から空が見たくなり、私は静かに部屋を出た。
ここ、ミナス・ティリスに着いてからというもの、城の中を見て回ったことがなく、私は自分が歩いている場所がどこなのか分からなくなり…ま、平たく言えば「迷子」になってしまった;
ちょっと;私がいた部屋ってどこよ;
あれ?さっきここ通らなかったっけ?
……もうッ!!迷路じゃないんだからちゃんと分かりやすくしてよね?!
こうなったらとことん探検してやるわ!
そう思うが早いか、私は迷路へと迷い込んだ。
「下より上に行きたいわ」
私は下へと続く階段と、上へと続く階段を見つけた。
当然最初の目的は「朝日が見たい」ということだった為、迷わず階段を上がっていく。
あ、面白い!途中から螺旋階段になってるんだ…。
ってことはここは塔なのかしら?
「…ハァ、ハァ…結構あるわね;」
ずっと寝込んで体力が消耗している私にとって、長い階段はきつかったけれども上には出口が見えるまでに上って来た。
「つ…着いたわ…;―――ッ!!!」
額に汗を掻きながら上った先に待っていたのはテラスで見たときより明るくなった青い空だった。
そして何よりも私をビックリさせたのがそこから見える景色。
目の前には視界を遮るものは何もなく、雄大に広がる平原。
地平線の向こう側から太陽が昇ってくるのだろう、そこの空は…とっても光輝いている。
もう少しで陽が昇る…。
「――――ッ!!ぅわぁ………」
太陽が顔を覗かせた瞬間の空は、私が今まで見てきた景色のどんなものにも勝るとも劣らない、とっても綺麗な朝日だった。
「……………なんて…………綺麗なの………」
私はその綺麗過ぎる景色に感動してしまい、涙を流しながらその場にへたり込んでしまった。
「ゴンドールの朝日ほど綺麗なものはないだろう?」
「キャッ!!」
後ろから突然声が聞こえて振り返ると、そこには朝日に目を向けて微笑んでいるボロミアの姿があった。
「ボ、ボロミア?!何故ここにいらっしゃるのですか?!ビビビ、ビックリするじゃないですか!!」
私はバクバク鳴っている心臓を押さえながらボロミアを見上げる。
すると、ボロミアの視線はその場にへたり込んでる私へと降りてきた。
「の部屋を覗いたらもぬけの殻だったから探し回ったんだ。ここへは…何となく足が向いたから来てみたら、驚いたことに探し回っていたが座り込んで朝日を見ていたんだ」
俺だってビックリしたぞ?と言いながらボロミアは持っていたブランケットを私の肩にかけてくれる。
「あ…ありがとうございます…。えっと…ごめんなさい、勝手に抜け出しちゃって…;」
私は素直に心配させた事を謝ると、ボロミアは笑顔で首を横に振って私の隣に座った。
「ここから見る朝日ほど綺麗な景色は滅多にないだろう…?」
「ええ、私もいろんな景色を見てきたけど…涙が出るほど感動したことはなかったように思います…」
「俺もここ以上の景色はないと思っている。実は…この朝日をに見せたくて探し回ってたんだ」
「え?!私に?」
お互い朝日を見つめていたのだが、バッとボロミアの方を向くと、ボロミアはゆっくりと私を見てきた。
そして極上の微笑で私を見つめる。
「俺は…ここには心身共に疲れたときに来るんだ。そうすると全てが洗い流されるような気持ちになるだろ?」
「そうですね…。心の洗濯が出来そう…」
私はフフっと笑って言うと、ボロミアも笑ってくれた。
それからボロミアはポツポツと自分の過去を喋りだした。
きっと何かがあったんだろう…。
私はそう思ってボロミアの話に耳を傾けていた。
自分の幼い頃の話や、ボロミアのお母様の話。
デネソール候とファラミアの確執…。
ゴンドールの軍の話。
きっと今は聞いて欲しいんだ…そう思った。
そして過去の話をするボロミアはとても辛そうだった。
真剣に話しているボロミアに対し、私も真剣に聞く。
そして話終えたのか、ボロミアはプッツリと口を閉ざした。
きっと今、ボロミアにとって大変な時期なんだろうと察することが出来る。
そんな時に私なんかが来ちゃって…きっと疲れを癒す時間もなかったんだろう。
「俺がいなければ…父上もファラミアも上手くいくんだろうか?」
急にポツリと呟いたボロミアはとても悲しそうで、今にも涙を流してしまうんじゃないかとさえ思うほどだった。
「ボロミア?そんなこと言っちゃダメですよ!デネソール様も、ファラミアも…ボロミアがいなかったらバラバラになってしまいます…二人にはボロミアが必要なんです!大丈夫…、元気を出して!」
そう言うとボロミアは一瞬驚いた顔をしたが、フッと苦笑気味に笑って「そうだな」と一言だけ言うと、私の頭をクシャッと撫でた。
「すまない;こんな話をしようとしたわけじゃなかったんだが…;何だか聞いて欲しい感じがして…。でも、に話せて良かった…。聞いてくれてありがとう…」
「いえ…。私でよければ…滞在期間中だけですが、いつでもお話なら…聞けますから」
「ハハハ!その時はよろしく頼むよ。――さて、そろそろ部屋に戻ろう。君の侍女が心配するだろ?」
「え?あ!!もうこんなに陽が昇っちゃった…;早く戻りましょう!メアリーを怒らせると怖いんだから;;」
私は肩にかけてあるブランケットを手に持ってたたむと、上から手を差し出された。
「え?」
「行くぞ?」
ボロミアから差し出された手は、一向に引っ込むことはなく、私は恥ずかしがりながらもその手を掴んで立たせてもらう。
私たちはこの目の前に広がる綺麗な景色を尻目に、部屋へと戻っていった。
帰り道を教えてもらって分かったが、今の塔への入り口と私の部屋は全く正反対の場所にあった;
私ってどこまで方向音痴なんだろう…;
「きっと次は一人でここには来れないわ;」
私がガッカリしてそう言うと、ボロミアは笑いながら「俺が連れて行ってやるさ」と言ってくれた。
私はその言葉にちょびっとだけだけど、ドキッとしたが、気づかないフリをした…。
BACK