コンコンッ
寝る準備をしていた私は部屋の扉がノックされた音で手を止め、夜の訪問者を確かめようと扉の前に立った。
メアリーが忘れ物でもしたのかしら?
そんなことを思いながらも「どちら様?」と聞くともう一度、コンコンッとノックする音が聞こえてきた。
不審に思いながらも私はそっと扉を開けると、目の前に立っていたのは照れながら大量の花束を抱えたボロミアだった。
「ボ、ボロミア?!この花束はどうなさったんです?」
「どうだ?綺麗だろ?」
そう言ってボロミアは持っていた花束を私に手渡した。
「え?あ、ええ。…とても綺麗…だけど――」
「、今少し時間あるか?」
急な訪問といい、花束のプレゼントといい、急な呼び出しといい…何だかボロミアらしくなく、私は戸惑いながらも頷き、手渡された花束をひとまずテーブルの上に置いた。
話なら明日でも良いのに…と思う自分もいたが、そのまま部屋を出て廊下を歩いていったボロミアの後を追う。
「キャッ!」
私はボロミアの後を追っていたが、途中でつまずいて転びそうになってしまった。
「?!おい、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。すみません;」
何もないところでつまずくなんて恥ずかしい…と思い俯いていると、右手に暖かい体温が伝わってくる。
「こうすればつまずかないだろ?」
ボロミアは暗闇でも分かるくらい優しく微笑みながら「離さないから」と呟くと、また歩き出した。
「あ、あの!でも…――」
「時間がない。少し急ぐぞ」
私は未だに城の中のことを熟知していないのに、今はランプが点々とついているだけの薄暗い廊下を歩いている。
はっきり言ってボロミアがいなければ迷子状態だ。
「ボロミア、一体どこへ向かってるんです?」
「…着いてからのお楽しみだ」
これ以上私が聞いたところでボロミアが答えてくれないのは一目瞭然。
私は疑問いっぱいの頭でボロミアに手を引かれて歩いていた。
すると、何だか見覚えのある上へ続く階段が目の前に現れた。
そうか!ボロミアは「あの場所」に連れてきてくれたんだ!
私は瞬時にあの時目にした素晴らしい景色が脳裏を過ぎる。
「この時間帯はまだ町が起きているから綺麗なものが見られるぞ」
ニヤッと笑ったボロミアはそのまま階段を上っていき、私もその後に続いて上った。
「どうだ?夜の景色もなかなかだろ?」
ボロミアは自慢気にそう言うと、私の手を引いて柵に近づく。
どこまでも続く平原はそこにはなく、夜の闇に染まっていた。
しかし、その中でゴンドールの町はまだ眠っておらず、家々の明かりでとても綺麗に浮かび上がっている。
遠く小さいが、人々の笑い声も聞こえてくる気がした。
「………聞いていいか?」
私は未だに真っ暗な闇を見つめながら「…ええ」とだけ答えた。
「…3日後、本当にローハンへ戻る気なのか?」
「え?!」
ボロミアは静かに、だがはっきりと聞いてきた。
そして私はその言葉にビックリしてボロミアを見た瞬間…。
「ッ!!…ボ、ボロミア…何故そんな…何かあったんですか?」
ボロミアはとても辛そうな表情で私を見つめていた。
今の今まで柔らかい笑顔で私を見ていたと思ったのに…何故?
「あの…ボロミア?」
私はそっとボロミアの左腕を掴んだ。
「何かあったんですね?一体何が―――」
顔を覗き込もうとしたその時、私はボロミアの胸の中に納まっていた。
「キャッ!ちょ、ボロミア?!は、離してください!」
何とか腕の中から抜け出そうと必死にもがくが、ボロミアの力が更に強まって動けなくなってしまった。
「すまない…でも少しだけ…もう少しだけこのままでいてくれ…」
耳元で囁かれ、私の心臓は張り裂けそうになった。
やめてよ!ドキドキなんてさせないで!
私は「彼」の元に帰らなきゃいけないんだから!
お願い…もう、これ以上私の中に入ってこないで…。
壊れそうなの…
「……………………好きだ……」
苦しそうに…切なそうに聞こえてきた声で囁くその言葉は何?
イッタイ
アナタハ
ナニヲイッテイルノ…?
「……好きなんだ…」
ボロミアの腕の力が抜け、少し身体が離れて見つめてくる。
「な……何言って―――」
「俺は明日、イシリアンに旅立つことになった」
「えッ?!」
ボロミアが何を言いたいのか分からず、私は頭の中が真っ白になった。
そして、次の言葉に私は愕然とした。
「戦に行く」
聞き取りづらいくらい小さな声で呟いたボロミアはもう、私を見てはいない。
「な…何?一体…どういうこと…?だってそんなこと今まで一言もッ!!」
私は今まで以上に脈が速く打たれ、心臓がギュッと押しつぶされそうな感覚に陥った。
「話せなかったんだ。特に…、君には」
悲しそうな瞳で見つめられ、今までボロミアは言えなかったんだという事が分かる。
きっと私に言わなかったのもボロミアが気を使ってくれたからだ。
確かに私がゴンドールに来てからはいろいろあったし、出会ってすぐの私にそんなこと言えなかったのかもしれない。
それでも一言、何か一言だけでも言ってほしかった。
「ボロミア………嫌よ…行かないで…」
「…すぐに戻ってくるから…それまでここにいてくれないか?」
『すぐに戻ってくるよ!だから待っててくれよな?』
私の頭の中で「彼」の最期の言葉がフラッシュバックされた。
その瞬間、何かの糸が切れた。
「嫌……嫌よ…嫌ッ!!すぐに戻ってくるなんて嘘よッ!!だってッ!だって…帰ってこなかったじゃない…」
「ッ?!ッ!おい!落ち着けッ!」
「嫌よッ!!離して!離してったらッ!!」
私はパニックに陥り、涙を流しながらボロミアの胸を叩いた。
「俺は必ず帰ってくるから!」
「彼もそう言ったわッ!!笑顔で…『すぐに戻ってくるよ』って…。『だから待っててくれよ』って…。でも……戻ってきた彼は…ッ!!」
「ッ!!もういい!すまない、もういいから!…思い出させてしまうと思ってたから言えなかったんだ…」
ボロミアの悲しそうな瞳を見ていられず、私はボロミアの胸に顔をうずめた。
自分でもこの行動にはビックリしたが、そのままボロミアの背中に腕を回す。
「え…っと……?」
「……もう、誰も死んで欲しくないんです…。戦で命を落として欲しくないんです!!」
「……」
「…彼は…私の婚約者になるはずでした…」
「ッ!」
「彼は『戦いから帰ってきたらプロポーズしたいんだ』って顔を真っ赤にして私に言ったんです。私、死ぬほど嬉しかった…。愛してる人に同じように想われるなんてって。だから毎日毎日彼の無事を祈ってた。『彼なら大丈夫。無事で帰ってくる』って、そればかり。…そんな時疲れきった様子の兵士たちが帰ってきたのを見て、一目散にその場に駆けつけた…。そして父の顔を見つけて駆け寄った時…父の腕の中に青白い顔をした彼が…ッ」
「、辛いならもう――」
「いえッ!…聞いて下さい…。―――彼の胸には2本の矢が刺さった痕。背中には…剣で刺された痕がありました…。私の前に横たわっている彼が目を覚ますことは二度となかった。私は彼の亡骸にすがって泣いていた時、父が言ったんです。『こいつの最期の言葉…、に会いたいって言ってた…。亡骸となったこいつの姿をお前に見せるのは酷なことだとは思ったが…想いをくんで連れてきた』って…。『手を見てみろ』とも言いました。私、彼が握り締めていたものを見て…「お前は生きろ」って言われた気がしたんです。…ボロミアはクローバーって知ってます?」
「あ、ああ…」
「クローバーの中でも四葉のクローバーは滅多になくて、それを見つけると幸せになるなんてジンクスがあるんです。それを以前、彼と二人で探し回った時があって…。何時間も探し回ってやっと1つ見つけたんです。私はその四葉のクローバーを押し花にしてからお守りとして戦の前に彼に渡してて…それが彼の手にギュッと握り締められてるのを見て私…、誓ったんです。彼の言うとおり生きる…。
でも、彼以外の人とは結婚しないって…」
私はボロミアから一歩下がってそう告げた。
そう、初めから結婚なんてしないと誓っていたんだ…。
今さらどうにでもできることじゃない。
私は、ローハンへ帰るんだ…。
そう思った瞬間、ツキンッと胸が痛くなった。
それが何故なのか、私はこの時初めて気がついてしまった…。
自分の気持ちに…。
ボロミアへの想いに…。
あとがき
だあぁぁぁぁぁぁ!!!!最近全くかけません;時間はあります。妄想してます。では何故なのか?それは只今「浮気中」であるからです!(爆)
いえ、ロード〜を一番に愛しているのは変わらないのですが、久々にマンガ「デスノート」にはまってしまい、私が最も尊敬してやまないサイト様の夢小説で更にノックアウトされてしまいまして…(照)
ここ最近は頭の中が「L」一色…w
それでも読んでくださる方がいる限り亀以上に遅い更新ですが頑張っていきますのでよろしくお願いしますw
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