「うっわー;遅刻しちゃう!!」
私は、今日1限から授業があるにも関わらず寝坊してしまった。
「髪の毛OK!化粧OK!えぇっと…お財布OK!携帯もOK!あとは…」
鏡に映る自分をチェックしてから部屋の中を見渡し、忘れものがないかどうか確認する。
これが習慣となり、今は忘れ物などほとんどしなくなった。
「昨日やったレポート持ったし、教科書、ノートもOK!」
私は、用意しておいた大学で使う教科書類を紐で束ねたものを片手に持ち、肩には色々と小物が入ったバッグをかけて家を出る。
私は鍵を素早くかけると、約10分かかる駅まで猛ダッシュした。
あー、もう!足がもつれるわ;
普段運動しないからこういう時が大変なのよね;
お♪あの角を曲がればすぐだ!
ドンッ――バサバサバサッ
「キャッ!――いったーい;」
「うわッ!――いってー;」
確実に私の前方不注意で、曲がり角を曲がった途端に私は誰かとぶつかり倒れてしまった。
それでも身の危険を察すると人間、何とか受身は取るもので、私はかすり傷程度。
「ス、スイマセン!!私の不注意で…」
「いや、僕こそ不注意で…ごめん!」
ゆっくりと起き上がりながら謝ると、相手も同じく体を起こして謝ってきた。
いや、確実に私が悪いよ;
私走ってたし:
私は立ち上がって洋服に付いた砂をはらった。
「本当にごめんなさい;ちょっと急いでたもんで;お怪我はありませんか?」
私は相手の男性の心配をすると、その人は「僕は大丈夫。君は?」と言いながら、さっきまで持っていた教科書たちが散らばっているのを見て拾ってくれた。
「あわわ;スイマセン!ありがとうございます;私は大丈夫です。」
私も慌ててノートを拾うと、その人は「はい。これで全部だね?」と、律儀にも辺りを見回し、確認してから拾ったものを私に渡してくれた。
「重ね重ねスイマセン;本当にありがとうございました;」
「いや、僕も不注意だったからそんなに謝らないで?じゃ、僕はこの辺で…」
その人は嫌な顔一つせずに…と言うよりもニッコリと笑ってそう言うと、その場から去ってしまった。
あー;まさしく今が「穴があったら入りたい」ってやつだわ;
しっかしまー、あの人が優しい人で良かった;
私はバラバラになった教科書などをまた束ね直し、気を取り直して駅に向かった。
「!こっちこっち!」
講義室に入ると、友達のシャルが私に向かって手を振っている。
何とか講義の時間に間に合ってホッと一息つきながらシャルの元へ行くと、シャルは呆れ顔をしながら私を見てきた。
「おはよう、。また寝坊なの?」
「おはよう、シャル。またって言わないで;これでも頑張って起きたんだから」
私は痛い指摘に苦笑するしかなかったが、最後の方は小声で言い訳をした。
シャルは「まったく…」とわざと大きく溜息をつくと、今度は嬉しそうな顔をして私の顔を見る。
「そうだ!急なんだけど、は今夜空いてる?さっきキャシーたちと久しぶりに飲みに行かないかって話になって、確かもバイト休みだったよなーと思ってさ♪どう?」
シャルの言うキャシーは私たち二人の共通の友達で、受ける講義が別々になってしまった為に最近はメールくらいでしか連絡を取ってなかった。
「えー!もちろん行くわよ♪アリス…だっけ?キャシーの友達。あの子も来るの?」
私は最近キャシーがメールでよく出す名前を思い出しながらシャルに聞くと「そうみたいよー」と、気にしてない感じで答える。
が、しかし…私はまだ2回しかアリスと会った事がなかったために一瞬躊躇ったが、思い直して二つ返事でOKした。
今日の講義が終わり、私たち二人はキャシーたちと待ち合わせている大学近くの喫茶店に入り、紅茶を飲んで他愛のない話に花を咲かせていると、入り口のドアが開いてキャシ−とアリスが入ってきた。
「!シャル!久しぶりね♪ゴメンね、待たせちゃって;」
「こんにちは!も来てくれたのね!ありがとう♪」
キャシーは綺麗なロングでブロンドの髪を揺らし、ちょっと胸元が大きく開いてるよ;と突っ込みたくなるセクシーな格好で、アリスは対照的にショートの黒髪で外見は男の子?と間違えられてもしょうがないブラウンのタートルネックにジーパンという格好だった。
どうしてこの二人が友達なのか未だに信じられないのは私だけ??
などととんでもなく失礼な事を思っている私は適当に二人に挨拶を済ませ、喫茶店を出ることにした。
「ってば、いっつも嫌がってたのにどうして今日は来る気になったの?」
と、バーに向かってる途中にキャシーは意味の分からない事を言ってきた。
「え?嫌がってた?私が??私は別に嫌がってないよ??」
今までキャシーたちと飲みに行く時はなるべく顔を出していた。
むしろ皆が私のバイトの休みに合わせて飲みに誘ってくれるのでほとんど毎回参加できてたので、何故今日になってキャシーがそんな事を言うのか理解できずにいた。
「あら、だってったらいっつも『そんなのは私抜きで行って来ればいいじゃない!』って最後には怒りながら言ってたじゃない?まさか自分で言ったの忘れてるの?」
キャシーのその一言で何となく…そう、何となくだが嫌〜な気分がした。
私がいつもその言葉を言う時は…
「ま、まさかとは思うけど…今日の飲み会って…4人で飲むのよね?」
私の反応にキャシーはすぐにケラケラ笑って「?何言ってんのよ!今日は合コンよ?!」と…;
「…シャールーッ!!騙したわね?!私は合コンなんて一言も聞いてない!!知ってたら来なかったわよ!!」
アリスと前を歩いていたシャルに向かって怒鳴ると、シャルは振り返りニッコリと微笑んだ。
「あら、いつもいつも私が席を取っておいてあげてるじゃない?そのお礼だと思えば安いものよ♪ねぇ?w」
シャルのニッコリと微笑む姿は私でも恐ろしく感じ、そしてそんなシャルには口答えしてはいけないと言う、暗黙の了解みたいなものがあった。
「う”…;(クッソー><!!私が合コン嫌いなの知ってるくせに!!しかもたかが席だけで…;)」
私はシャルが怖くて、俯いて3人についていくのが精一杯だった。
「あ!いたいた♪マイク!!」
私の前を歩いていたアリスが手を振って男の人の中に混ざっていく。
「今回はアリスの友達との合コンなのよw何でも俳優の卵らしいよ♪」
シャルはウキウキしながら私に説明しているが、はっきり言って無理矢理連れてこられた私には、相手がどんな人たちでも関係なかった。
むしろそんなに楽しみなら自分たちだけで行ってくれ;と、悪態をつく。
「ねぇシャル…何で私も行かなきゃいけないのよ;別に私が行ったって盛り下がるだけじゃない;」
「あー、そっか。には言ってなかったっけ;実はね、あのアリスの友達が、私たちが4人で撮った写真を偶然見つけてさ。その写真見てを紹介して欲しいってことになったんだって♪でも、アリスとってそんなにまだ仲良くないからこういう形になったみたいよw」
シャルは嬉しそうに話すが私には迷惑以外の何物でもない;
「勘弁してよ;私は別に出会いとか求めてないし…」
「人生一度っきりじゃない!もっと楽しみなさいよ!あ!ほら、誰か来たわよw」
シャルは私の肩をバシバシ叩きながら興奮しているが、そんなシャルを私は冷ややかな目で見ることしか出来なかったのはしょうがないだろう。
「こんばんはw君がだろう?俺はアリスの友達のマイク。ヨロシク!」
マイクと名乗った彼は、きっといつもその笑顔で女の子を虜にしているんだろうと予想ができる、とびっきりの笑顔で私に手を差し伸べ、握手を求めてくる。
「は、はあ;…ヨロシク…;」
私は差し出された手が一向に引っ込まないので仕方なく手を重ねると、彼は嬉しそうに微笑んだ。
「やっぱり写真で見た以上に可愛いねw今日は人数合わせで無理矢理連れてきた奴とかもいるんだけど、俺はがいればそれでいいや♪今日はめいいっぱい楽しもうね!」
楽しもうって;
私…その場の空気読めない人って苦手なんだけど;
「…無理矢理連れてきた人なんているの?」
境遇が一緒な人がいるのね!何だか心強いわ><!
私はどの人が私と同じ境遇なのか知りたくて聞いてみると、マイクは「あいつだよ」と指を指した。
マイクが言うその先にいた男の人を見て、私は一瞬声が出なかった。
同じくその先にいた男の人も私を見てビックリした顔をしている。
「あなた、今朝の!!」
「君は、今朝の!!」
お互い指差し確認をして声をあげる。
「まさかこんな所で会うなんて思わなかったわ!あっと…今朝はごめんなさい;思いっきりぶつかっちゃって…」
「すっごいビックリした〜!今朝のことは俺も悪かったよ;本当に大丈夫だった
?」
彼がとても心配そうに聞いてくるのを見て、心のどっかがくすぐったい感じがした。
「うん、私は大丈夫よ!それよりあなたが…今日無理矢理連れてこられたの?」
「オーランドだよ」
「…へ?」
質問とは違う答えに、私は思わず変な声を上げてしまった。
「俺の名前。オーランドって言うんだ。皆からはオーリィって呼ばれてるから君もそう呼んで?」
彼…オーリィは「ね?」と私に微笑んだ。
その笑顔を見ると、自分もつい笑顔になって「私はよ。ヨロシクね、オーリィ」と答えていた。
「ちょ、ちょっと待って!何々?オーリィとは知り合いだったの?!」
突然隣にいたマイクが私たちの会話に入ってきて、何だかあたふたしている。
そしてそれにつられてシャルまでもが私の服の袖を引っ張り、耳打ちしてきた。
「!どういうことよ!!あの中で一番カッコいい彼とどうして急に親密になってんのよ!」
私はシャルの言葉にちょっとうんざりした;
シャルは結構気の合う友達だが、男性のこととなると目の色が変わってしまい、それだけが私と合わない所で嫌な部分だった。
「シャル…私の隣にいて今の会話聞いてなかったの?彼は今朝、私が急いでておもいっきりぶつかった相手なだけよ!」
そう答えると、シャルは明らかにホッとした表情をした。
きっとオーリィ狙いなんだろうと言うのが見て取れるように分かったが、あえて突っ込まないことにした。
そして自信家でもあるシャルは早速オーリィに話しかける。
「私はシャルよwの親友なの!ヨロシクね?ねぇねぇ、私もオーリィって呼ばせてもらって良い?」
シャルはぴょこんっとオーリィの隣に行き、オーリィの腕に自分の腕を絡めながら下から上目遣いでオ
ーリィを見つめている。
よくやるよ;
でも、あのシャル相手にオーリィったらあんまり嬉しくなさそう…
そう、いつもだったらシャルのこの一押しで大体の男は落ちる。
言わばシャルの十八番らしい上目遣いも、オーリィには効いてない模様。
私は「見てらんない」と言わんばかりに二人から目を逸らした。
すると、ちょうどアリスとキャシーに呼ばれ、マイクが予約したとされる目の前のバーに入ることになった。
正直な話、本当に行きたくない;
別に出会い求めているわけでもなく、ただ単に騙されて連れてこられたようなもので、きっと私が断ったって支障はないだろう。
行きたくないものに行って、笑いたくもないのに笑って…話したくもないのに話をして…そんなのうんざりだ。
「?どうかしたの?」
いつの間にか皆は先に次々とバーに入っていて、私は俯きながら一番後ろを歩いていが、いつの間にか隣にオーリィが立っていた。
「オーリィ…。オーリィも今日は無理矢理連れて来られたんでしょ?…実は私もなの。私の場合は騙されていたと言うか…;」
さすがに友達の悪口になるようなことは思っていても言いたくないので言葉を濁らすと、オーリィは苦笑いをして後ろから頭にポンっとオーリィの手が置かれた。
「もだったんだ?じゃあさ、とりあえず今は入っておいて、あとで抜け出さない?」
オーリィは悪戯っ子のような微笑を浮かべて私に提案してきた。
そしてもちろん私もすぐにその作戦に加わった。
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