「ゴメン、俺ちょっとトイレ行ってくる;」

そう言ってオーリィは今度はキャシーに絡まれていた腕を優しくすり抜いて立ち上がった。

チラッと立ち上がったオーリィを見ると、彼は私を見て目で合図して出て行った。

きっと今のが合図よね…?

こんなすぐに出て行ったらバレるかも;

「じゃあさ、はどんな男がタイプなの?」

い、いつ出て行こうかしら;

あんまり待たせるのも悪いし;ってか待ってる…よね?

?聞いてる??」
「キャッ」

突然目の前にマイクの顔が出てきて私はビックリして後ずさり、顔が赤くなるのが分かった。

「あ…ゴ、ゴメン!私…お手洗いに行ってくるわ!」

私はそう言ってバッグを手にとって、マイクの静止の言葉も聞かずにお手洗いへ向かった。

すると、お手洗いのドアにオーリィが寄りかかってるのが見え、私はホッとしてオーリィに近づく。

私に気が付いたオーリィは私が歩いてくるのを見て笑った。

「来てくれて良かった♪じゃ、行こうか!」

オーリィは私の手を握って歩き出そうとした瞬間―――

「あれ??と、オーリィ?!な、何してるのよ?」

声をかけられて振り向くと、そこにはビックリしてるキャシーが立っていた。

何をしてるのかって聞かれて、今から抜け出すところだ何て口が裂けても言えないわよ;

でも、だからってこんな手を繋いでる状況で何もしてないなんてことも言えないし;

私は手に汗が滲んでくるのが分かった。

オーリィも察してくれたのか、私に小声で耳打ちしてくる。

「3・2・1で走るよ?3・2・1!」

そう言うと、オーリィは私の繋いだままの手を引っ張って走り出した。

「うきゃッ!」

変な声を上げてしまったが、これもご愛嬌ということで許してもらおう…。

私たちは無銭飲食でもしたかの様にバーから出る。

そしてバーに入るときに下りた階段を、今度は走りながら駆け上っていき、通りに出てからもしばらくは必死で走っているオーリィの後を私もまた必死で追いかけた。



だいぶ走ると、オーリィの走るスピードがゆっくりになってきた。

そして公園に入ってベンチの前まで来ると、やっとオーリィは私の手を離して止まった。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、…はぁ、大丈夫?」

オーリィは手を膝について、前かがみになりながら顔だけを私に向けて聞いてくる。

私はと言うと…

息が上がってしまって声を出すことが出来ずに首だけで返事をしている。

そう、それも横に首を振って。

大丈夫なわけないじゃないっ!

私が一体いつから走ってないと思ってるのよ…;

いや、今朝走ってたけど、あれは自分のペースだから良しとして。

そんな私を全速力で10分も走らせるなんて…死ななくて良かった…;

走ってる途中「あの世」が見えた気がしたし(んな馬鹿なっ!)


しばらく息が落ち着くまで会話がなく、だからと言ってお互い自分の息をすることに精一杯だから気まずい空気と言うことでもなく…。

やっと落ち着いてきた時に、オーリィはベンチの前に広がっている芝生に寝転がった。

「ハァ〜〜、俺、久しぶりに走った気がするよ」

頭の下で手を組みながら夜空を見上げているオーリィは、爽やか少年のような可愛い笑顔を見せている。

私もオーリィの隣に腰を下ろして夜空を見上げると、雲一つなく、星が綺麗に瞬いていた。

「そうね〜。私もこんなに全速力で走ったのは久しぶりな気がするわ」

苦笑しながらオーリィを見下ろすと、オーリィもまた私を見ていたのか目が合わさった。

「ねぇ、…この後どうする?」

「え?」

「帰るって言うなら送っていくけど…もし時間が平気だったら…その…どっか飲みに行かない?」

オーリィは少し早口で、捲し立てるように提案してきた。

私も小さいグラスに半分…と、中途半端にお酒を口にしてきたせいで飲み足りなさがあったため、すぐに頷く。

「うん。いいよ♪私ももう少し飲みたいなって思ってたから…さ」

私が笑顔でそう答えると、オーリィは「良かった♪」と言って体を起こした。

芝生から立ち上がると、私は服に付いた芝をパッパッと掃う。

オーリィも同じく体中にくっついている芝を手で落としていくが「落ちた?」と私に背中を向けてくる。

見てみると…一体どこを掃ってたの?と、思わず問いかけてしまいたくなるくらい、たくさんの芝生が髪の毛から背中、ズボンに至るまでに付いていた。

「…っぷ!アッハハハ!オーリィ、全然取れてないよー?全く…私が取ってあげる」

そんな私の言葉に、オーリィも苦笑しつつ「じゃあ、お願い」と言って直立不動になった(笑)



「さ、これで取れた!」

一通り見て全部取れたのを確認すると、オーリィの方にポンッと手を置いた。

「ほんと?ありがと♪」

オーリィが振り向くと、私は思わず目が点になってしまった。

何故かって?

お兄さん、爽やかスマイルは素敵ですよ?

でもね…?

前髪に付いてる芝生にくらい気が付こうよッ!!

こう、視界に入ってこないのかしら??

「オーリィ…;前髪…確認した?」

私は苦笑気味にオーリィに聞くと、この目の前のおとぼけ青年は「えッ?どこどこ??」と前髪をパッパッと払っているが、余計に奥へと入り込んでいく。

「ちょっとちょっと!奥に入り込んじゃってるよ?見せて…」

私はオーリィの前髪に手を伸ばすと、入り込んだ芝生を丁寧に取り除いた。

「はい!取れたよ♪ほら」

取った芝生を手の上に乗せてオーリィを見上げる。

「あ、ああ、うん…えっと…あ、ありがとう…」

何だか急にアタフタしてしどろもどろなオーリィに「?」だったが、私は大して気にもしなかった。

「ねぇ、どこに行く?私さ、ライナスっていうバーがお気に入りなんだけど…」

「え?ライナス?!うわッ!偶然だー!俺もライナスに最近行ってさ、もうすっごいお気に入りになっちゃったんだよね〜」

「うっそ!そうなの?!本当に偶然〜!」

「じゃあ、もしかしたらライナスでも俺たちすれ違ってるかもしれないんだ〜。世界は狭いね〜」

「うん!本当だよね。私のフラットはあのバーからすごい近いんだw知ってるかな?ライナスの前の通りの先を左に曲がってすぐのベーグルショップの上なの♪」

「ええぇぇ?!俺、よくあそこのベーグル買いに行くんだよ!―――って、本当に俺たち近いところに住んでるんだね」

私たちは歩きながら、思いもかけずお互いの家が近いことにビックリしつつ、ライナスへと向かった。

そうやってライナスに着くまでにいろいろな話をすることになり、私たちはより一層仲良くなれた気がした。




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