「レゴラス!!危ない!!」



「?!――――ッ!!」







今から1500年ほど前、僕のわがままで闇の森を抜けて少し遠出をした。





一緒にいたのは大の親友だった…。





僕よりも538歳年上で、兄のような存在だった。





いつも一緒にいた。





その日もは「しょうがないな」と言いながら僕のわがままについてきてくれていた。





あの時僕がわがままなんて言わなければ!





後悔先に立たず。



誰かがそんなことを言っていた気がする。









「ねぇ、!今日は久しぶりに遠乗りにでも行かないかい?」


金色のストレートな長髪を綺麗になびかせて、に会って開口一番がこれだった。


「レゴラス…;今日は行かないと昨日言っただろ?」


今日は無理だとは楽しみにしていた本を広げ読み始めた。


「そんなこと言わないで!僕は今日、遠乗りに行きたいんだよ〜!!本を読むのは明日でもいいじゃん!ね?」


と強引にから本を取り上げる。


「はぁ〜、お前、そのわがままな性格は早く治した方がいいぞ?そんなわがまま言ってたら好きな相手に嫌われてしまうからな」


などと嫌味を言っているみたいだが、僕には分かっていたんだ。


僕が必死にお願いすればは一緒に遊んでくれる。


そして今もは遠乗りの準備をしている。


「今日だけだぞ?」


この言葉は何度目か?もう、数え切れないほどというのは確かだ。


「やった♪僕、が一緒じゃなきゃ楽しくないんだもん」


などと、到底未来の王様が言うような言葉とは思えない発言をする。


まぁ、レゴラスくらいだと、年齢的に人間で言う20歳弱だろう。


遊びたい盛りなのも分かるため、は強く言うことはしなかった。











闇の森の入り口付近まできた。


「随分遠くまで来てしまったな。もうそろそろ戻ろう」


太陽の位置を確認しながらはレゴラスに言った。


「えーー?もうちょっと出てみようよ!ちょっと行ったらすぐに帰るから」


悪戯な微笑を浮かべたときのレゴラスほど手に負えないものはない。


「…すこしだけだぞ?」 


自分でも、常々レゴラスには甘いのを分かっている。


しかし、闇の森ではレゴラスが一番年下だ。


それまでは自分が一番年下だったため、自分の弟分が出来るととても喜んだことを覚えてる。


甘くなってしまうのはしょうがないことなのだろう。


そのとき、少し向こうの草むらで何かが音を立てた。


二匹のオークがレゴラスに向けて弓を引いてる。


(しまった!!気づくのが遅かった)


そう思った時にはの体は動いていた。


「レゴラス!!危ない!!」


オークが矢を放つ間際にその存在に気がついた。


(駄目だ!やられる!!)


そう思って目を瞑ったが、もう届いてもいいはずの衝撃がこない。


そっと目を開けると、目の前を銀のカーテンが滑り落ちた。












「?!――――ッ!!」


すぐさま矢を放ち二匹のオークは絶命した。


ッ!!!どうしてッ!!」


僕のすぐそばでは胸に矢が突き刺さったまま倒れていた。


「…レゴ…ラス…、無事で…良かった」


ッ、喋らないで!今、僕が今助けるから!!」


「いいんだ…、もう…」


「何がいいんだよ!!僕はもっとと一緒にいたいんだッ!遊びに行きたいところもたくさんあるし、やりたい事だってたくさんある!恋の話だってしたいし、弓の訓練だって!!」


「…レゴ、ラス…あぁ、そうだな…。やりたいこと…いっぱい…あるよな…」


「ッうん!そうだよ!だから死んじゃ駄目だ!…僕を置いて逝かないで!!」


「レ…ゴラス…俺の…大事な、弟…。泣くな…強く…あれ…」


の瞳がフッと閉じ、力が抜けたのが分かった。


「……?おい、?!嘘だ…嘘だーーーーーーーーー!!!!!」










「あの時僕があんなわがまま言わなければはッ!!全部僕のせいだったんだ!」



そう、全て僕のせいだった。



僕があの日誘わなければ!!



「違う!違うよ、レゴラス!あなたが全て悪かったんじゃない!」






、君は優しいんだね…。






君のそういう所が好きなんだ。





でも、違わないんだよ。




「違わないよ…。僕は今でものことは昨日の様に覚えてる…」




目を瞑るとその時の光景が流れるんだ。



「…」



?なぜ君がそんなに悲しく辛そうなんだい?そんな顔、しないでよ。



「僕が壊したんだ…」



幸せだった日々を、僕が壊してしまったんだ。



「レゴラス…?!レゴラス、泣かないで!涙は流してはいけない!…代わりに、の代わりにはなれないかもしれないけど、私がずっとそばにいるわ!」



涙…?



そういえば目元が微かに熱を持ってる感じがする。




今流れているのが「涙」で、これが「泣く」ってことなんだ…。




を死に追いやってしまった僕が、幸せになってもいいのだろう
か?」



は怒るんじゃないか?



「何言ってるのよ。彼は…レゴラスが幸せになってくれるようにって助けてくれたんじゃない!」



、そうなのか?僕はこのまま幸せになっても良いのかい?



『レゴラス…。レゴラス、久しぶりだな』



急にの体が大きく揺れたと思ったら、彼女はエルフ語を喋りだした。



『レゴラス、俺が分からないか?』



の雰囲気がガラリと変わり、オーラが力強い男のオーラになった。



?!でもまさか!』



『少しだけ、この子の体を借りることが出来た』



の口調も、昔のそのものだった。



『本当になのか?!』



『あぁ、時間がない。いいか、よく聞くんだ。俺はあの時の事を怒ってもいないし、いつでもお前の幸せだけを願ってる。だから、俺のことはもう気にするな。早く忘れるんだ』



1500年たって急に出てきて、そんな事言うなんて…。



『そんな!忘れるなんて出来るわけないだろ?!』



『…じゃあ、俺を忘れないために俺の分まで幸せになれ。俺はいつでもお前を見守っているから』



『ッ!』



『レゴラス、生きろ…』



どんどんのオーラが小さくなり、なくなってしまった。








「――――――ッ!!」



グラリと体が揺れた。



ッ!!」



レゴラスが支えてくれなかったらそのまま顔面から倒れるところだった;



「大丈夫かい?!」



「あはは。大丈夫大丈夫。今のでちょっと疲れちゃったみたい;」



そう言った私に、レゴラスは目を大きく開けて私を見た。



、君はに体を貸したのが分かっていたのかい?」



「うん。彼の心も分かった。彼は本当に素敵な人だったのね…」



「え?」



「彼は本当にあなたを愛していた」



レゴラスはますますビックリしたような顔をした。



エルフは滅多に見せない顔だった。



「羨ましいな、そんなに誰かから強く愛されてるなんてさ!」



力の入らない体をレゴラスに委ねながら彼の目を見てウィンクする。



「…君だって他の仲間に愛されてるじゃないか」



私の髪を手で梳きながら今度は優しく微笑んだ。



「確かに仲間愛は感じるけどさ、ほら、誰か一人にすっごく愛されるのって良くない?」



ちょっと乙女チックになりながらそう言った。



「…確かにそうだねぇ。僕の場合は、君に愛されたいよ」



「?!レ、レゴラス///」



今までレゴラスは可愛いだの、綺麗だのって散々私に言ってきた。でも、あ…愛されたいって!!



「僕は旅の仲間としてじゃなく、君を愛してるよ?」



気がつかなかったのかい?とでも言うように、シレっとたいそうな事を言ってくる。



「ほ、ほ、ほ、本気なの?!」



声が上擦ってしまうのはこの際勘弁願おう。



「僕がそんな嘘をつくわけないだろ?」



今度はちょっとムッとした顔をして私をレゴラスの向かい合わせに座らせ、頬に手をあてる。



「どうすればの心は手に入るのかな?教えて?」



(お、教えてってお兄さん!か、顔が!その綺麗な顔が近づいてきてますよ!!)



「ッ!!」



目をギュッと瞑った瞬間、額に彼の唇の感触がした。



パチッと目を開けるとレゴラスの顔は離れていて、優しく微笑んでいる。



、君の心が手に入るまでもう、何もしないよ」



そう言ってレゴラスは私の頭をポンポンっと軽く撫でながら耳元で囁く。



きっと私たちは二人とも鈍かったのかな?



「…だって…」



「え?何か言ったかい?」



レゴラスはキョトンとした顔をして聞いてきた。



「私だって同じ事思ってたわって言ったの///」



捲し立てるようにレゴラスに告白した。まさかこんな時にこんな所で言うことになるとは思わなかった。



「…本当に?、今のは本当なんだね?」



レゴラスの顔を見なくても、かなり嬉しそうな顔をしてるのが分かる。



私はコックリ首を縦に振った。



恥ずかしくて顔が上げられない。



するとレゴラスの綺麗な手が伸びてきた。



そして片手で私の顎を持ち、私の顔を上に向ける。



レゴラスと目が会うと彼は微笑んでいた。



、大好きだからね」



そう言って今度は唇が重なる。



長く長い、永遠に続いて欲しいような優しく気持ちのいいキスだった。



その時私の中で彼の…の声が聞こえた。



(レゴラスをよろしく頼む…)



(うん。ずっと私たちを見ていてね)



私がそう答えると彼は消えて行った。





それからの旅は正直、厳しく辛いものだったけど、フロドとサムが指輪を葬り去ってくれて再び平和が訪れた。



私達はミナス・ティリスの再建が一段楽した後、レゴラスと共に闇の森へ帰り、結婚式をあげた。



もちろん一番祝福してくれたのはだっただろう。


                                    
 END






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