「ハァ〜、今年もまた一人で誕生日…;」


毎年自分の誕生日が近くなると恋人がいない。

これって結構寂しいのよ?などと独り言言ってみたって返事が返ってくるわけがない。

あと1時間半で私の誕生日は終わってしまう。

「いつものところ行こう」

やっぱり一人は寂しくて、私は常連になっている行きつけのバーに向かった。


「ハーイ、マスター!こんばんわ!」

「やあ、!珍しいね、こんな時間に。どうした?何かあったか?」

40代後半であろう、髭をはやした結構渋めの顔立ちなマスターは、カウンター席に私を座らせながら聞いてきた。

「大したことじゃないのよ。ただね、今日は私の誕生日だったの」

私はちょっと悲しそうに笑った。

「誕生日?!なんだ、もっと早く言ってくれればプレゼント用意しておいたのに」

マスターはそう言って悲しそうな表情をした。

「え?そんな、いいのよ!毎年この時期は一人だったから、今更よ♪」
「全く、らしい答えだな。じゃあ、私からプレゼントでおいしいカクテルを作ってあげるよ」

と言って、マスターが作ってくれたカクテルは透明な黄色で、チェリーの赤がとてもよく映えている、甘くておいしいカクテルだった。

「おいしい!これは何を使ったの?」
「それは企業秘密だよ♪」

マスターは意地悪っぽい顔をして言った。

「マイク、今彼女に作ったやつを私にも作ってくれないか?」

突然一人の男性が私たちの会話に入ってきた。

「おぉ!ヴィゴか。早かったなぁ。もっと遅くなると思ったよ」
「仕事が早く切り上がったからその足で来たんだ」
「そうかそうか。ま、座れよ」
「あぁ」

そう言って彼は私の隣に腰を下ろした。

、こいつはヴィゴ。俺の親友だ。ヴィゴ、この子は。ここの常連さんだよ」
「初めまして,ヴィゴ・モーテンセンだ」
「…初めまして、です」

ちょっと不思議そうな顔をしていた私に、彼は首をかしげた。

「どうかしたかい?」
「え?あ、いえ…;ただ、私たちどこかで会ったことがあるような感じがして…」

どこでだっただろう?と悩んでいた。

するとマスターがクスクス笑っている。

がヴィゴと会ったことありそうだって?まぁ、ある意味そうかもしれないな」
「あぁ、そうだな。何を観たのか分からないが」

私の言葉に反応して答える二人の会話の意味すら分からなくて疑問符を頭いっぱいにしている。

は映画を観たりするかい?」

急にどうしてそんなこと聞いてきたのか理解に苦しんだが、二人が面白そうなものを見つけた子供のような笑顔でこっちを見てくるので私は「少しね」と答えた。

「じゃあ、この前までやっていたロード・オブ・ザ・リングは?」
「あの三部作のでしょ?もちろん観たわ」
「どうだった?」
「とっても凄い映画だったわ。感動した。あのアラゴルンって人が素敵だったなぁ」

などとちょっと顔を赤らめて言った。

すると今まで喋らなかったヴィゴが急に「そ、そうか」と言って顔を赤らめたのが分かった。

「でもどうして?」

素朴な質問にマスターが笑いを堪えられなくなり、大きな声で笑い出した。

「な、何?!マスター、どうしたの?」
「アハハハハハ!、君は最高だよ!よりによってアラゴルン!!」
「え?え??どういうことよ??」

マスターの意味不明さにだんだん苛ついてきた。が、マスターの次の言葉で私は言葉を失った。

「ヴィゴがそのアラゴルンだって言ったら??」

その言葉に目が点になる。

ヴィゴを見ると苦笑して私を見ている。

彼の瞳にはマスターの言っていることを否定する色は全くない。

「う…嘘でしょ…?」

思い出すとヴィゴは確かにアラゴルンにそっくりだ。

こう、ウェーブのかかった少し長めの髪の毛で、野伏の少し汚れた感じの服に剣を持たせれば…「完璧アラゴルンだ」心で呟いていた言葉がいつの間にか口からでて、言葉になっていた。

「分かってもらえたかな?ヴィゴは俳優なんだ。他にもこいつは多趣味でいろいろやっているけどね」

などと平気な顔でむしろ自分の親友が有名人ってことを自慢している様子でもある。

「えぇ…。何だかすごいビックリよ。とてもハンサムだとは思ったけど、まさかハリウッドスターだったなんて」

ハハハっとヴィゴはマスターが作った私と同じカクテルを口にした。

「ん、これはハワイアンじゃないか?」
「お!よく分かったな。の誕生日が夏だってことでこれにしたんだが」

マスターは嬉しそうに言った。

「これってハワイアンって言う名前なの?」
「そうだよ。ドライジンをベースにしたオレンジのカクテルなんだ。気に入ってくれたかな?」
「もちろん!これからはこのハワイアンを頼もうっと♪」

ニコニコ笑ってカクテルを口に含むと、ヴィゴがそれを見ていた。

「ん?どうかしたの?」

そう問いかけると彼は優しく微笑んだ。

「いや、何だか君がとても可愛くてつい見惚れてしまったよ」

などと、恥ずかしいセリフをさらりと言ってのけた。

「なななななっ!!何を言い出すんですか!あなたは!」

と、顔から火が出そうな勢いで首をぶんぶんと横に振った。

「おや?ヴィゴはが気に入ったみたいだね。珍しいこともあるもんだ」

とマスターまでも変なことを言っている。

「ま、マスターまで!」
、ヴィゴはとても紳士的なすごくいい男だよ。親友である俺だってビックリするくらいにね。だから安心していいぞ」

思わず何がよ!!と突っ込みたくなった。

しかしそれよりも早くヴィゴの手が私の肩に触れた。

「え?」
「もうそろそろ時間も遅くなってきたから、家まで送るよ」
「え?でも、私さっき来たばかりよ?」
「いいから」

そう言ってヴィゴは私の腕を掴むと、結構強引に店から連れ出そうとした。

「ちょ、ちょっと待って!私、お金払ってない!!」
「後で私が払っておくから」

と、その間も彼の足は休まることなく店の外へ出た。

はっきり言って、いくらハリウッドスターだからと言っても、初対面の男性に急にこんなことされて怖くないわけがない。

そもそも、知らない人に「家まで送る」と言われて素直に自分の家を教えたりなんてできない。

「さて、の家はどこなんだい?」
「えっと…;」
「なに、遠慮なんてしなくていい。…それとも私たちは初対面だから教えられないか?」

今まさに心の中で思っていたことを私的され、ビクッと肩が揺れたのが自分でも分かった。

「ハハハ。君は素直だな。そんなところも可愛い」
「ヴィ、ヴィゴ??その、さっきから可愛い可愛いって言ってるけど、そんなことないわ。それに、ごめんなさい、やっぱり一人で家に帰るわ」

私は顔を上げることができず、俯いたままそうつげた。

「…私は本当に思っていることしか口にしないんだがなぁ。 私はが心配なんだよ。今何時だか分かってるかい?あと5分で0時になってしまう。夜は危険だから…」

「あと5分か。私の誕生日が終わるのね…。今日ヴィゴと会えたことはきっと神様の誕生日プレゼントだったんだと思う。少しは良い誕生日を迎えなさいって言ってくれたんだと思うわ。でも、それもあと5分で終わり。きっともう、私たちが会うことはないと思うわ」

?!何でそんなこと!」

急に声を荒げるヴィゴに少しビックリした。

「マイクがさっき、ヴィゴはが気に入ったっていってただろう?あれはその通りだ。この年にもなって、またこんな想いをするのかと君にあった瞬間思ったが、私は君に…一目惚れしてしまったようだ。初めてあった日にこんなこと言われても迷惑かもれないが、今ここで伝えなければ後悔すると思った」

彼はとても真剣だった。

真剣だったからこそ、ヴィゴの想いに答えなきゃいけないと思った。

「ヴィゴ…。まさかあなたがそんなこと思っていてくれていたなんて、とてもビックリしたわ。あなたが言うように、私たちは出会ったばかりでお互いのこと何も知らないのよ?」
「これから徐々に知っていけば良い」
「そうだけど…」
は、私が嫌いか?」

彼の意外な言葉に思わず私が声を荒げてしまった。

「そんなことない!!むしろあなたにとても興味があるわ」

これは本当のこと。

「そして、このまま仲良くなったらきっと私はあなたのことを好きになる」

これも真実。

本当は私自身彼から離れたくなかったのだから。

でも、彼はハリウッドスターよ?今まで散々美人な女優さんたちと共演してきて、なぜ今更私なの?どう考えたっておかしいじゃない。

好きになるのを分かってる相手に、飽きられたら私はどうなってしまうだろう?
そんな悲しい想いをするくらいなら、初めから好きにならなければ辛い思いをしなくて済むわ。

そう、心の中で思った。

が私を愛してくれるなら、私は一生リヒトを離さないつもりだけど?」

私はサトラレか?!と一瞬思った。

そう、彼は今私が思っていたことを読みとっていたのだ。

「確かに今まで数多くの女優と共演してきた。けれど、以上に心を囚われた人は一人もいない」

信じてほしいと言われ、揺らいだ。

「もう、0時過ぎちゃった」
「え?」
「神様からのプレゼントはきっとヴィゴとの出会って、これからのヴィゴとの生活が私へのプレゼントだったのかな?」

ちょっと照れくさそうに言った。

もう、無理はよそう。

私たちは出会ってしまったんだから。

出会ってしまったら、離れることは不可能だ。

?」
「ヴィゴ、本当に私でいいの??」
「私にはがいてくれれば他には何もいらないんだよ」

そう言ってヴィゴは力強く抱きしめてきた。

、愛してる」

耳元で囁くヴィゴの声はとても甘く、私を幸せにしてくれた。

「私もよ、ヴィゴ。愛してる」

ヴィゴの顔を見ながら告白すると、ヴィゴの顔が近づいてきて唇が重なった。

ヴィゴのキスはさっきマスターが作ってくれたハワイアンのように甘〜く、蕩けそうだった。

「…ん」

少し苦しくなって喉から声が漏れた。

するとヴィゴの顔が離れていった。

「今日はもう遅いから、送るよ」

と、優しく微笑んで私の手を繋ぎ、歩き出した。






                                    
  END









あとがき

終わった…?これっ終わったのか!?少しどころかかなり不完全燃焼…。

そしてよく意味が分からない気が…。

ま、お互い一目惚れでしたということで!(逃)

今回は一応誕生日という言葉が入っているので、内容がどうあれバースデー小説です。

こんなもんで本当にスイマセンって感じです;;



マスターは最初だけしか出てきませんでしたね;アハハ;文中のハワイアンは何だか美味そうだなと思って起用しました。

どっか今度飲みに行ってあったら飲んでみましょう。ではでは!





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