森の中を進むと、そこはエルフの谷「裂け谷」がある。





その裂け谷を治めているのが半エルフだが、絶大な力の持ち主のエルロンド卿である。



そしてそのエルロンド卿の周りには彼の娘、アルウェン。双子の息子エルラダンとエルロヒア。




側近にはグロールフィンデルやエレストールなど、様々な優秀なエルフがいた。



そしてエルロンド卿の館には約3000年眠り続けている少女がいる。



指輪戦争が終わり、指輪は持ち主である冥王サウロンから人間のイシルドゥアに渡り、それからの指輪の行方が分からなくなっていた。



そうしてエルロンドが裂け谷に帰ってくると、裂け谷の入り口で一人の少女が横たわっていたのだ。



そうして保護してから一度も目を覚まさず、それでも息をしているため放り出すこともできずに今現在も彼女がここにいるというわけだ。










「………」



「…もうすぐ目覚めるか…」



エルロンド卿は少女の微かな変化を察知し、眠り続けている少女のベット脇に置いてある椅子に腰を下ろした。



「………」



「一体そなたは…」



発見してから一度も目を覚まさない少女が一体何者なのか、それだけがとても気がかりだった。



「…ん…」



「?!」



「…ここは…?」




眠っているときこそとても美しく見えた少女が、今まさに目の前で瞳を開き、声を発した。



黒くて長い漆黒の髪と同じ色のとても大きな瞳。

しっかりとして、凛とした心地よい声。

エルフと見紛うほどの美しさ…。



容姿は完璧といっていいほどそろっている人間の年齢で言うと20歳位の少女であった。








こうして一人の不思議な少女が3000年の時を経て目覚めた。












「…あなたはエルロンド卿ですね?」




「?!なぜ私の名を知っている?そなたは一体何者なのだ?」




今まで3000年も目を覚まさなかった少女に自分の名を言われ、険しい表情になった。



「そんなことよりも、今すぐ人間・エルフ・ドワーフ・魔法使いをこの地に呼び寄せてくださいッ!」



「なぜそんな事を…?」



エルロンド卿はこの不思議な少女がまた不思議なことを言い出し、ますます疑問
に思った。



「…サウロンが…目覚めましたッ!今すぐに指輪を見つけ出すのです!!」



「!!なぜそなたがそんな事を知っているのだッ!まさかそなたは…スパイか?!」

自分でも察知していないサウロンの目覚めを知っているものは、敵以外考えられなかった。

エルロンド卿は、今まで敵のスパイを裂け谷で保護していたのかと後悔していた。

だが、少女は平然と答えた。



「いいえ。私はサウロンの敵です。私はサウロンをこの世から葬る為に神よりこの命を授かりました。そしてサウロンが目覚めたと同時に私も目覚めたのです」



「何?!そのようなことが…?!」

エルロンド卿とて何千年も生きてきたが、そんな話は今まで聞いた事もなかった。

しかし、目の前にいる少女の目は嘘を言っている瞳ではなく、エルロンド卿ですらサウロンを倒すためだけに生まれてきたと言うことを信じさせるほどの迫力があった。



「一刻の猶予もありませんッ!どうか信じてください!!」



「…そなたの言葉を信じよう。すぐに各地に使者を送る。だが、そなたの事をもっと詳しく知りたいので、後で私の部屋に来て欲しい。…ところで名は何と言う?」



と申します。ありがとうございます。ではすぐにお部屋の方にお伺いします」



「では、待っているぞ」













そうしてエルロンド卿は使者を送る準備の為にの部屋から出て行った。



入れ違いで部屋に入ってきたのはエルロンド卿の側近である銀髪を綺麗になびかせたグロールフィンデルだった。



「私はグロールフィンデルです。殿をエルロンド卿のお部屋までご案内します」


「そうですか。ありがとうございます」


はグロールフィンデルに連れられて、初めて部屋から外へ出た。



すると目の前には夕日に照らされ、幻想的に浮かび上がる裂け谷の全てを眺めることが出来た。




「わぁ…!素敵なところ…」



思わず息を呑んで、それ以外の言葉が出てくることはなかった。いや、出せなかったのだ。



「さぁ、エルロンド卿がお待ちかねですよ?」



声をかけなければいつまでもそこに立ち尽くしていそうなを少し微笑ましく思い、それでも我が主へと連れて行かなければいけないため、先を促した。



「わぁ!スイマセン!!」



グロールフィンデルの言葉にフッと自分の目的を思い出し、思わず赤面した。


そして急いで後をついて行く。


グロールフィンデルは後ろからついてくる少女を見て、人間となんら変わりのないことに少し驚いていた。




のいた部屋の前から廊下を歩き、二つ目の角を左に曲がり、すぐ右にあるドアがエルロンド卿の部屋になっていた。



グロールフィンデルがノックをして扉を開け、中に入る。それに続いても部屋に入った。





「わあ…」


これもまた思わず溜息が出てしまうほど、とても多くの本が机に散らばっていて、その机を囲むようにびっしりと本が詰まった10段くらいあるとてもでかい本棚があった。



「では、少々尋ねたいことがある。答えてくれるな?」



前に立っているエルロンド卿に視線を戻し、しっかりと力強くうなずいた。



「はい。私に答えられることは何でも答えましょう」











「…では、サウロンを無事葬ることができたとき、そなたは真の人間になると言うのだな?」



「はい。その為に私は剣術や弓術、薬学やかすり傷程度なら治せる事が出来る力、そして不死が備わっています。しかし人間になった時、そこからやっと人間として生きていけるのです」



「…なるほど」



「私の力はそれくらいです」



「いや、そこまで備わっていれば十分であろう。ところで指輪の話なのだが…ガンダルフが何か掴んだらしい。彼が着くまで待つことだ」



指輪の情報が入ってきて、は驚きに目を丸くする。



「早いですね…。ガンダルフとは一体誰ですか?」



「魔法使いだ。灰色のガンダルフと呼ばれている。彼が来るまでは好きにしているといい」



そう言ってエルロンド卿は本が沢山置いてある机に戻ろうとしていた。



「エルロンド様!お願いがあります!」



急なお願いに少しビックリしたのか、エルロンド卿はに向き直った。



「なんだ?」



「…あの…私、3000年も目を覚まさずにいたから、世界のことが分からないのです。もしエルロンド様さえ良ろしければ…本を貸していただけないでしょうか?」



考えてもみなかった答えにエルロンド卿は少し微笑み、承諾してくれた。



は部屋に数多くの本を持ち帰り、人間の倍以上の速度で本を読み終えていった。

そして、1週間たったころに全ての本を読みつくしたのだった。




、そなたにはそんな特技もあるのだな」と半ば呆れたように言われたこともあった。



読み終えてやっと回りに目を向けることができた。



部屋から出ると、一番最初に見た壮大なとても綺麗な景色を見ることができた。



「本当にここは綺麗…」



この景色を決して暗黒の闇に汚させないようにと決意がより一層高まった。





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