「お、おい!あいつ何で着いて来るんだ?!」
ボロミアの言うことももっともで、私が力の限りを使って助けた野犬は私たちを追ってくる。
「ボロミア!このままだとみんなの所に着いちゃうから、私を下ろしてって!」
そうしてやっとボロミアは抱いていた私を木にもたれ掛けるように下ろした。
すると野犬は尻尾を千切れんばかりに振り、私に近づき擦り寄って来た。
「もしかしてお前、私たちと一緒について行きたいの?」
頭を撫でながらそう問うと、それに答えるように一度だけ吠えた。
「そっかぁ…――でもね、私はお前と一緒にいたいけど、私一人では決められないんだよ。仲間があと9人いるの。みんなの許可がないと…」
そういうと、座っていた私の足の上に頭を乗せ、動こうとしなくなった。
「…、どうする気だ?」
ちょっと――いや、かなりムッとした表情でそれを見ていたボロミアが話しかけてきた。
「ど、ど、ど…どうしよう;…ボロミアは反対…だよね?」
「ウッ…;い、いや、反対とか賛成とかじゃなくて…――、その…頼むから下から見上げないでくれ」
「…は?いや、私はボロミアが賛成か反対か聞きたいんだけど?」
何故か急に顔を真っ赤にしてわけのわからない事を言っているボロミアの顔を覗き込んだ。
「ッ!!―――さ、賛成!賛成でいいから!!その目で俺を見つめないでくれ!」
そう言ってボロミアは右手で顔を覆って私から視線を逸らした。
「?変なボロミア。でも、この子を連れて行くのには賛成してくれたのね♪ありがとう!あとは他のみんなね…」
野犬を茂みに隠し、ボロミアに抱かれてみんなの前に現れると、仲間は皆驚きを隠せなかったようで、一斉に私の元へやってきた。
「?!どうしたの?何かあったの??」
「「どうしてボロミアさんに抱かれてたの??」」
「さん、もしかしておらのせいだか?」
ホビッツからは矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
「、ボロミア、一体何があった?」
ホビッツの質問を遮ってアラゴルンが無表情で聞いてきた。
「ごめんなさい!勝手なことしたって分かってるけど、どうしてもみんなにお願いがあるの!」
ボロミアに下ろしてもらって、徐々に体の自由が利いてきたため、みんなの前で手をついた。
そして私の助けた大きな野犬の話をし、合図をして野犬を呼んだ。
「何て事を…;、自分のしたことが分かってるのか?!この旅は遊びじゃないんだぞ!それを、自分が助けた犬を一緒に連れて行きたいなんて!無理に決まってるじゃないか!!」
「アラゴルンの言っていることは分かってる!でも、何故だかどうしてもこの子を連れて行かなきゃいけない気がするの!!どうしても…。この子には何か力があるような…そんな気がするのよ!」
「それでも―――」
アラゴルンが言いかけたその時、パイプをふかしながらガンダルフが救いの手を差し伸べてくれた。
「まぁまぁ、アラゴルン。がここまで必死に訴えているのじゃ。の言う通り、この大柄の犬だったら戦闘にも役立つかもしれんぞ?」
「そうだよ!僕たちホビットは動物と共に生活してきたから、犬が増えるのは嫌じゃないよ?」
こうしてガンダルフやホビッツたちの賛成があり、私が泉で助けた野犬は晴れて旅の仲間に加わった。
体の自由が利いてきたからとはいえ、旅が出来る状況ではなかった私のために、一日だけその場で野宿することになった。
「お前の名前は…ね!」
いろいろ悩んだ挙句、考え付いたのは「」だった。
「うん、一番しっくりくるね♪」
「かぁ。いいかも!」
「カッコいい名前だよね!呼びやすいし」
一緒にの名前を考えていたメリーとピピンがそう言ってくれたので、本決まりとなった。
本人もそれが気に入ったのか、尻尾を振り、メリーとピピンに擦り寄っていた。
「なんかさ、が二本足で立ったら僕らより背高いよね、絶対;」
メリーが複雑そうな顔をしながら呟いていた。
「、おいで!今日はあそこの木の根元で寝るからね」
そう言ってを連れてまだ寝心地が悪くはないだろう場所を探し出し、腰を下ろした。
と寄り添い毛布を肩からかけ、寝る準備をしていると、レゴラスが近づいてきた。
「、話だけいい?」
「うん?いいけどどうしたの?―――あ…もしかしてレゴラスものことで…?」
神妙な面持ちをしてやってきたレゴラスに、私なりに発想して聞いた。
「いや、そうじゃないんだ。ただ…何となくと話したくてさ」
苦笑しながらレゴラスは自然に私の真隣に腰を下ろした。
「…はどうしてこの旅に参加したんだい?裂け谷で暮らすことだってできただろうに」
突然のレゴラスの言葉に肩を震わせた。
「もしかして…レゴラスも反対だった?私が旅に参加したの。もう、嫌になっちゃった?やっぱり私は足手まとい?」
悔しくて悲しくて、涙が出そうになったがなんとか堪えた。
「違うんだ。僕はのことを嫌になったり足手まといだなんて思ってないよ。ただ…を危険な目に合わせたくないんだ…。が何故そんなにもこの旅に参加しようとしたのか、僕には分からないんだよ…。君は旅をせずとも幸せに暮らせるのに」
レゴラスは真剣な顔で私に訴えた。今ならまだ引き返せると心の中で訴えている。
「レゴラス…私はこの旅がどれだけ危険かも分かってるつもり。それに私は裂け谷で守られて暮らすことは許されないの。私は指輪を葬るために3000年の眠りから覚めたのだから…。あ、でもね、私はこの旅に参加できて幸せよ?だからお願い、私も一緒に連れて行って」
私の決意にレゴラスは大きな溜息を一つ吐き、分かったよと言ってやっと優しい微笑を見せた。
「これからは僕がを守る。だからあんまり無茶するんじゃないよ?」
レゴラスは私の頭に手を乗せて、諭すように私を見つめる。
そんなレゴラスの心配が嬉しくて、私は小さくうなずいた。
「ありがとう…」
みんな…本当にありがとう…
私は心の中で、仲間たちに幾度もお礼をした。
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