「ボロミア、ボロミア♪」
私はギムリの後ろを歩いていたボロミアの隣に行き、話しかけた。
何とか「指輪を葬る使命」に意識を向けさせようと、でもなるべく明るく喋ろうと思った、なのに…
「…か。何だ?」
ボロミアは一瞬目を合わせただけで、前を向いて素っ気無く返事を返してくる。
何だかピリピリした空気がそこに流れたが、もちろんここで引くわけにはいかない。
「…」
私は思わず必要以上に頬を膨らませ、ボロミアの態度に不満の色を表した。
「…?」
自分からやって来たくせに頬を膨らませている私を見て、ボロミアは怪訝そうに私の顔を覗き込む。
そして何を思ったのか、私の膨らんだ頬に人差し指を押し付けた。
プシュっと中の空気が抜け、それを見たボロミアの表情が緩んだ。
「アハハ!、間抜けな顔になってるぞ?」
「んなっ!ボロミアが押すからでしょ><!!」
私はポカポカとボロミアの腕を叩きながら言った。
今の空気なら言えるかも…そう思い、私は何とか話を切り出した。
「ねぇ、…ボロミア…」
少し真剣な顔をしてボロミアを見上げると、とても優しい表情の彼がそこにいた。
「この旅…辛い?」
「何だ、急に…」
ボロミアは苦笑しながら前を向く。
「辛いかと聞かれて辛くないと答えるものはいないだろう?」
ボロミアは少し眉を上げて言う。
「…そりゃそうだけど…不謹慎かもしれないけど、私はこのメンバーで旅が出来て良かった」
「え?」
「辛く苦しい旅かもしれないけど逆にそれを楽しんでやらない?サウロンもビックリするくらいさ♪」
私はボロミアに今の気持ちを伝えた。
そう、私はこの辛い旅だからこそ10人+1頭の最高の仲間で指輪を葬りたい。
誰一人欠けてはいけない。
「…アッハハハハ!!、お前はやっぱり凄いな!確かに楽しんでいればサウロンもビックリだ!
俺もこのメンバーで旅を出来ること、とても誇りに思うぞ。――特にがいてくれて俺は救われた
ような気持ちになる…」
ボロミアは突然お腹をかかえて笑い出した。
かと思ったら最後の方はとても真剣で、何故かボロミアの顔は真っ赤だった。
「うわー、そう言ってくれると嬉しい♪いつも迷惑ばっかりかけてる私も少しは役に立ててるって思えてくるわ!」
ボロミアを励ましに来たつもりが逆に励まされてしまい、不覚にも舞い上がってしまった。
「迷惑なんかじゃない!!」
ボロミアは急に大きな声を出して立ち止まり、私を見つめてきた。
「ボ、ボロミア??」
わけが分からずボロミアの顔を覗き込むと、ボロミアはふいっと私の横を通り過ぎて歩いていってしまった。
「え?え??私、何か言った??」
私は混乱した。
さっきまでお腹を抱えて笑っていたボロミアが、何故急に怒って行ってしまったのか…。
私は自分で言った言葉を反芻してみたが、やっぱり何故ボロミアが怒ってしまったのか分からない。
迷惑なんかじゃないって思ってくれてたのは嬉しかったけど…
「えー?何で??」
私が頭を抱えていると上から苦笑する声が聞こえてきた。
顔を上げるとそこにはレゴラスが立っている。
「…もしかして今の…聞いてた??」
私は恐る恐るレゴラスに聞いてみると、金の髪が縦に揺れた。
「ゴメンね…。聞く気はなかったんだけどエルフの耳ってこういうとき恨みたくなるよ;それよりカラ
ン…さっきの言葉は僕が聞いても怒ってしまうよ?」
レゴラスは悲しげな表情をしてボロミアが何故怒って行ってしまったのかを教えてくれた。
「ボロミアも、もちろん僕や他のメンバーはの事を1度だって迷惑だなんて思ってないんだよ?
僕らはに気を遣って欲しくないんだ。いつでも本当のを見せて欲しいんだよ…」
レゴラスは「ね?」と首を傾げてそっと私の手を握り、頭を抱えて立ち止まっていた私を引っ張って歩かせた。
私はレゴラスの手の暖かさに顔が赤くなるのが分かった。
「レゴラス?!あ、あの…手、…離して///?」
だが、レゴラスは私の言葉を無視し、握る手を強めた。
「レ、レゴラス!!」
私はブンブンとレゴラスに握られている方の腕を縦に思いっきり振ったが、レゴラスは離してくれない。
私は意地になって離そうと必死になり、空いている方の手で一本一本レゴラスの指を外していった。
が…それが逆に仇となり、レゴラスが溜息をついた瞬間私の体は地から離れた。
「キャア!!レゴラス?!ちょっと、下ろしてよ!」
私はレゴラスの腕の中でお姫様抱っこをされてしまった。
もちろんそんな恥ずかしい姿を誰にも見られたくなかったので、ジタバタと抵抗して見せたが、レゴラスには何のその…;
「は手を握られるのが嫌だったんでしょ?だったら抱いてあげるから大人しくしていたら?そんなに暴れられると落としてしまいそうだよ?ほら!」
「キャーー!!止めて!落とさないで!!」
レゴラスが一瞬力を緩めたのが恐怖感を煽り、必死にしがみついてしまった;
そして何となく視線を感じたと思い、そのままの状態で前を向くと…何と仲間全員が呆れ顔で私たちを見つめている。
「レゴラス…お前はいい加減にしろよ?早くを降ろせ」
今度は私たちの前を歩いていたアラゴルンがレゴラスの腕の中にいる私を引き摺り下ろした。
「うわッ!…ビックリした…ア、アラゴルン;とっても助かったんだけど、急に降ろさないで;」
お礼も言わず本音をポロリと出すと、アラゴルンは私の頭に手を置きポンポンと撫でた。
「いいか?。レゴラスには気をつけるんだぞ?何かあったらすぐに助けを呼べよ?」
…アラゴルンさん?真顔なんですが…;そしてレゴラスさん?何故そんなに黒いオーラ出してるんですか?
「おや、エステル…僕を信用してないんですか?」
それは心外だと言わんばかりの顔をしてレゴラスはアラゴルンに詰め寄った。
「レゴラス…私は仲間としてはお前のことを信用もしている。信頼だってしている。しかし、に
関しては…男としてはたった今信用できなくなったんだ」
あのレゴラスに詰め寄られているにもかかわらず、アラゴルンはしれっと言ってのけた。
そしてレゴラスはウッと言葉を詰まらせ、苦し紛れにエルフ語で反発していた。
間にいた私はエルフ語なんて聞き取れるわけもなく、何でこんな事になってしまったのかと思い返して
いた。
あぁ…ボロミアの意識を他に向けることが最初だったな…;ボロミアったらあんなに前にいるよ(泣)
当然この両脇にいる二人の会話なんぞ聞いているはずもなく、私は静かにその場を離れたのだった…。