は今日も懲りずにエルラダンとエルロヒアに稽古をしてもらおうと、自室で用意していたところ
にドアをノックする音が聞こえた。
「はい。どうぞ」
の了承の言葉を聞き、入ってきたのはエルロンド卿の側近であるエレストールだった。
「おはようございます、。先程ミスランディアが到着したので、今日はにエルロンド様の
部屋へ行っていただきたい」
「おはようございます、エレストール。ガンダルフ様がお着きになられたのですか?!今すぐ行きます
とお伝えください!」
そう言ってエレストールが部屋を出て行くとすぐさま腰に剣をさげ、身なりを整えてエルロンド卿の部
屋へと向かった。
「失礼します」
エルロンド卿の部屋をノックすると中から返事が聞こえ、それに答えて中に入ると灰色のマントを羽織
った白髪で白髭の老人がエルロンド卿と立って扉の方を向いていた。
「ガンダルフ様、初めましてと申します」
「うむ。お主がか。大体の話は今エルロンド卿に聞いたところじゃ。このわしもが話すよ
うなことは聞いたことがない。だが、少し会ってもらいたい人物がいる。この館にいるから会ってくれ
るかな?」
ガンダルフはエルロンド卿と一度目を合わせてからに向かってそう言った。
「え?あ、はい!」
「それと、わしのことはガンダルフと呼ぶがいい」
勢いよく返事をすると、ガンダルフは少し微笑んでについて来るように指示した。
「ここじゃ」
扉を開け、中に入る。
「ッ?!」
とても禍々しい空気が真っ白なベッドで寝ている少年の周りから滲み出ていた。
「…この子は一体…?」
は顔は少年に、言葉はガンダルフに向けて言った。
「こいつはホビットのフロドじゃ。フロド・バギンズ。現在の指輪保持者じゃ」
「…サウロンの指輪ッ」
ガンダルフはその瞬間のの顔を見た。
そこには指輪を本気で葬ろうと心にでも誓っているかのような表情が読み取れた。
そしてそれを見たガンダルフはその表情によってを信用しようと心に決めたのだった。
「。わしはお前さんを信じるとしよう。もうすぐこの地に集うであろう人々と共に、会議に参加
してもらいたい」
ガンダルフの言葉を真摯に受け取り、は大きく頷いた。
「はい。私はその為に目覚めたのですから」
そうしては少しガンダルフと話した後、フロドという少年が眠っている部屋を後にした。
「」
自室に戻ろうと廊下を歩いていると、突然後ろから声をかけられた。
「ん?あら、エルラダン。どうしたの?一人?」
いつも二人一緒にいるのが当たり前のようだった双子の片割れのエルラダンが、一人でいるのがどこか
不自然で疑問をそのまま口にした。
「…は絶対に僕らを間違えないよね…。凄いな」
ハハハと笑って質問には答えないエルラダンがますます怪しい。
「まぁ、似てるけどやっぱり違うしね。…それより何かあったの?」
「うーん、いやぁ、ちょっと口論になっちゃってさ;理由は大したことないんだけど…」
二人が喧嘩するなどと思いもしなかったは目を丸くした。
「喧嘩?!二人が?!何で?」
昨日まであんなに仲良かったのに…と思いながら聞くと、理由は本当にくだらないものだった。
悪戯をして怒られそうなところをエルロヒアがエルラダンだけを残して逃げてしまい、エルラダンだけ
が怒られる羽目になってしまった。
それに対して文句を言ったところ、口論になってしまったということだった。
「…全く…;早く仲直りしてよね!…私もうすぐで旅に出るんだから」
「え?」
最後の方はとっても小さな声で呟いた。
エルフの耳なら聞き取れたが、エルラダンは聞こえないフリをしてくれた。
「ううん。なんでもない♪じゃ、私行くね!早く仲直りするんだぞ?じゃ!」
はエルラダンを残し、足早に部屋へと帰っていった。
「もうすぐだ…」
心の中で決意をし、テーブルの上に置いてあった水差しでグラスに水を注ぎ、一気に飲み干した。
が部屋のテラスから外を眺めていると、下から声をかけられた。
「ねぇ、君!エステルがどこにいるか知らないかい?」
目線を彼に合わせると、そこには金の髪をなびかせ緑色のエルフ独特の衣装を身に纏い、エルフの中で
も特に綺麗な顔立ちをしている彼は、少し遠慮がちな笑顔を向けてに話しかけてきた。
「…」
突然話しかけられビックリしていると、彼はまた言葉を続けた。
「すまない、僕は闇の森の王子レゴラスです。君がそこに住んでいるみたいだったから何か知っている
かと思って聞いてみたんだけど…」
「ごめんなさい。私は。1ヶ月ほど前からここにいるけど、エステルという人は分からないわ」
は申し訳なさそうに答えると、今度は思いがけない事を言われた。
「そうか。ありがとう。あのところで…君はエルフ?」
「え?」
「あぁ、いや、あまりにも綺麗だったからつい…」
照れもせずにサラッとそんな事を言うエルフに、は笑って首を横に振った。
「私はエルフじゃないわ。それに、あなたの方が綺麗よ?」
「ハハハ。そんなこと無いけどありがとう。じゃ、僕は行くね。また君に会えたら話をしたいな」
「えぇ、きっと会えるわ。じゃあまた」
レゴラスと名乗ったエルフは林のほうへ消えていった。
そしても少し館の中を歩こうと部屋を出た。
以前ラダンとロヒアに連れて行ってもらったナルシルの剣が置いてある広間に向かって歩を進める。
以前サウロンとの戦いでイシルドゥアという人間がサウロンの指輪の指を切り落とし、一時はサウロン
を葬ったが、指と一緒にサウロンの体を離れた指輪はずっと意思を持ち続け、またしてもサウロンを復
活させてしまった。
今度は自分たちが指輪を葬るのだ。
その決意を揺るがぬようにするためには頻繁にこの広間を訪れていた。
しかし今日は先客がいたらしく、カシャーンッという音と共に一人の男性がのいる方向に向かっ
て歩いてきた。
「…ここは女の来るところじゃない」
の前まで来ると、その男性はにそれだけを告げて去っていった。
「は?何なの?」
急にそんな事を言われ、少しムッとしながらも広間の中央、ナルシルの剣に近づくと、またしても一人
の男性がナルシルの剣を持ち上げ、もとあった場所に戻していた。
はその男性に近づくと、考えもせずに言葉を投げがける。
「…貴方は人間ですか?」
いきなり現れた少女にビックリするも、男性はの前まで歩を進めた。
「あぁそうだ。君は?エルフ…ではないようだな。ここで何をしてるんだ?」
少し警戒しているような男性には微笑んだ。
「私は。…貴方と同じ人間よ」
名を名乗り、それ以上質問に答えないにもう一度質問をしようとした。
「…アラゴルンだ。君はここで…」
「おや?にエステル。どうしたのです?こんなところで」
アラゴルンの後ろからグロールフィンデルが現れた。
「??グロールフィンデル?彼は今アラゴルンと名乗ったわよ?」
今聞いたばかりの彼の名前を掻き消すかのように違う名前を呼んだグロールフィンデルに、すぐさま突
っ込みを入れた。
「あぁ、エステルとは彼、アラゴルンの幼名なのですよ。ね?エステル」
「…あぁ、しかし今はアラゴルンと名乗っているのだからエステルとは呼ぶな」
アラゴルンはムッとして答えた。
「フフ。そうでしたね。―――それはそうと、。もうすぐ始まりますよ?その格好で出席なさる
のですか?」
グロールフィンデルはくるっとの方を向いて身なりを整えてくるように促した。
「やっば!!着替えてくるね!じゃ、グロールフィンデルはまた会議で!」
「?!」
はそのままそこから姿を消した。
しかし、アラゴルンはの最後の言葉に驚き、グロールフィンデルを見やり、詰め寄った。
「今のはどういうことだ?何故あんな娘が会議に参加するんだ?!今回の会議がどれほど重要なものか
分かっているのか!!」
普段落ち着き払っているアラゴルンが声を荒げたのを見て、少し驚いた素振りをしたが、グロールフィ
ンデルはすぐにいつもの表情になった。
「会議がどれほど重要なものかは誰よりもあの子が一番分かってますよ。もちろん貴方よりもね」
そんな意味ありげな事をもらし、グロールフィンデルもその場を去っていった。
「…あの子は一体…?」
アラゴルンの疑問に答えてくれるものはいなかった。
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