「やばいー!!会議に遅れちゃうッ!!」
会議が開かれる広間まで物凄い勢いで走っていると、腰に下げている剣がガチャガチャと音を立てて揺
れていた。
「遅れてスイマセンッ!!」
息を切らしながら入ってきた少女を見て、その場にいたほとんどの者が呆然としていた。
しかし、そんな中ガンダルフが手招きをして言った。
「…、わしの隣に来なさい」
「は、はい!」
いそいそと集まっている人たちの周りを回ってガンダルフの隣に腰を下ろした。
そしてそれを見届けると、エルロンド卿は会議を始めて行った。
グルリと周りを見渡すと、エルフの出席者の中にはレゴラス。
人間の出席者ではアラゴルンと私に嫌味を言ってきた男の人がいた。
そしてドワーフ。
ガンダルフの隣にはすっかり元気になったホビットのフロドがいた。
いろいろな種族が集まって、指輪についての話し合いをする。
「フロド、指輪をここへ」
エルロンド卿の言葉にフロドは席を立ち上がり、集まっている人々が囲むようにしている中心にある台
に、そっと指輪を置いた。
すると、あちこちから感嘆の声が聞こえた。
「本当だった…」
と言う言葉も。
私は指輪を見た瞬間悪寒が走った。
とても悪に満ちている指輪に恐怖心が出てくる。
そしてフロドは席につくと、一瞬安心したような表情をしたのが分かった。
一瞬の沈黙の後、ドワーフの一人が言葉を発した。
「力の指輪だ!」
それに続いて聞こえた言葉には言葉を失った。
「授かり物だ!」
そしてそんな馬鹿げた言葉を発した人物とは、さっき私に嫌味を言った人間だった。
彼は立ち上がり、なおも言葉を続ける。
「モルドールと戦う者への授かり物だ。ゴンドールの執政官の父はモルドール軍を退け、わが民の血で
君らの領土を守ってきた。敵の武器を逆手に使って奴らをやっつけよう」
「そんなことできるわけ無いじゃない!これは悪に満ちているサウロンの指輪なのよ?!」
「その通りだ。それに指輪がいうことを聞かん。指輪はサウロン以外の主人を持たないのだ」
思わず椅子から立ち上がり意見に反対すると、アラゴルンも私に続いて反対の意を表した。
「小娘やレンジャーごときに何が分かる?」
「なッ?!」
「侮るな。アラソルンの息子のアラゴルンだぞ。忠誠を誓うべき相手だ」
私の言葉を遮って、今度はレゴラスが立ち上がり彼を睨みつけながら言う。
すると彼はレゴラスの方を向き、そして再びアラゴルンを見つめる。
「アラゴルン?…イシルドゥアの末裔か…」
アラゴルンは何も言わず、目線を逸らさない。
「王位を継ぐものだ」
なおもレゴラスは続けたが、しかしアラゴルンは少し困った表情をしていた。
〈座れ、レゴラス〉
アラゴルンはエルフ語でレゴラスに指示した。
しかし、レゴラスの前にいる彼はレゴラスに視線を移す。
「…ゴンドールの王だと?王など必要ない」
そう言って彼はアラゴルンを再び睨みつけて自分の座っていた席に戻っていった。
「ともあれ、指輪は使えぬ」
今まで口を出さなかったガンダルフが言葉を発した。
「残る道は1つ。指輪を葬るのだ」
エルロンド卿は力強く結論を出した。
当たり前の結論に頷いていると突然ドワーフの一人が提案(?)を出した。
「俺がやってやる」
そう言って、彼の手元にあった斧を持ち上げながら立ち上がった。
「え?!そんな、無理よ!止めて!」
思わず口を出したが、彼はそのまま思いっきり斧を指輪に打ちつけた。
「ッ!!」
その瞬間、頭の中にサウロンの目が浮かび上がりすぐに消えたが、頭が割られるような痛みが続いた。
とてもじゃないが、自分が指輪を持って旅をし、指輪を葬ることは出来ないと、その瞬間感じ取ってし
まった。
フロドを見ると、彼も同じように頭を抱えていた。
きっと彼の中でも同じことが起こったのだろう。
ガンダルフも心配そうにフロドと私を交互に見ていた。
「やっても無駄だよ、ギムリ。我々の手では破壊できないのだ。それを造った火山の炎だけがそれを葬
る力をもっている。―――モルドールに潜入してそれが生まれた炎の中に投げ込むのだ。君らの誰がそ
の使命を?」
グルリとエルロンド卿はその場にいた一人一人を見やった。
しかし、「常識で考えてみればそんなことが出来るはずがない」と誰もが思っていた時に、またもや人
間の男性が言葉を口にした。
「モルドールへ潜入するだと?黒い門を守るのはオークだけではない。眠ることのない悪の力。そして
例の“目”が見張ってる。全土が不毛の大地。火が吹き上げ、灰とほこりに覆われている。呼吸をすれ
ば有毒ガスを吸い込む。 1万の兵を送り込んでも太刀打ちできん」
呆れたようにそう言って捨てた。が、それに対してレゴラスが怒りを露にした。
「エルロンド卿は言われた“指輪を葬れ”と!」
「お前なら出来るのか?!」
先程のギムリと呼ばれたドワーフはエルフと折が合わないらしく、レゴラスに食って掛かった。
「失敗をしてもしサウロンが指輪を取り戻したら?」
人間の弱さはきっとこの臆病さからきていると、人間の意見を聞いて思った。
「そんなことやってみなければわからないじゃない!ここでそんなこと言ってるより、指輪を葬りに今
すぐに旅に出たほうが確実に指輪は葬れると思う!」
人間の弱さを認めたくなくて言った言葉。
「彼女の言うとおり、指輪を葬りに行くべきだ!」
今この場で誰も賛成してくれる人はいないのではないかと思っていた時のレゴラスの言葉は、とても勇
気を与えてくれた。
「エルフの手に渡るなら俺は死んだ方がましだ!」
ギムリの言葉にエルフが全員猛反発に出た。
そして、それに対抗してドワーフも立ち上がり、そのうちその場にいた人たちが総立ちになり、口論と
なっていった。
ガンダルフは呆れ果て、フロドは困惑した表情をしていた。そのフロドの顔が何故か目が離せなくて、
私はフロドの様子を伺っていた。
ガンダルフまでも立ち上がり、口論を止めながら何かを言っているが、そんなことも耳に入らない。
きっとフロドは「自分が行く」と言い出すだろうと予測できた。
「フロド、ダメよ!」
「え?」
私の言葉にビックリしたようで、大きなブルーの瞳を私に向けてきた。
しかし、それが逸れたと思った瞬間、フロドは立ち上がった。
「僕がやる!」
「ダメよ!!」
やっぱりと心の中で思い、フロドの腕を引っ張り席に戻そうと思ったが、するっとフロドの腕は私をか
すめ捕まえることが出来なかった。
「僕がやります!」
小さな体で声を大きく張り上げて、言い争っている人たちに向かってそう言った。
その瞬間、広間はシンっと静まりかえった。
そして仲裁に入っていたガンダルフがゆっくりと振り返りフロドに向き合う。
「モルドールへ行きます。道は知らないけど…」
その言葉にガンダルフは、諦めたように溜息を吐いた。
「わしも重荷を分かち合おう。お前を見守っていく」
ガンダルフはフロドの肩に手を置き、力強く言った。
「私も君を守る。命を懸けて。剣に誓う」
続いて旅の同行を決意したのはアラゴルンだった。
「私は指輪を触ることも出来ない。だから自分で葬ることが出来ないなら私はこの剣と弓と…この命を
懸けてフロド…あなたを守るわ!」
アラゴルンに続いて私は決意を胸にフロドに誓った。
しかし、フロドは困惑したような表情をした。
きっと私が女だから。
他のみんなも思っているだろう。
でも、これだけは譲れなかった。
私はフロドに跪き、同意を求めた。
「フロド、にはついて来てもらったほうがいい。わしは賛成じゃ」
ガンダルフの助言があり、フロドは安心したように私に手を差し伸べてきた。
「。よろしくね!」
笑顔を向けて言われ、私も笑顔でよろしくと手を握り返し、フロドの後ろに回った。
「僕は弓で戦う」
「俺は斧で!」
レゴラスとギムリも続いて加わった。
「我々の運命は君の肩に。これが会議の決断ならゴンドールは従う」
そう言って人間の男性が共に加わった。
「しかし、そこの娘がついて来れるような旅ではないはずだ」
「え?私?」
「そう、お前だ。危険な旅に女は邪魔だ。どうせ剣もろくに扱えないだろう」
私を切り捨てるような言い方に、さすがの私も怒りが頂点に達した。
「…なんなら試してみる?まずは弓ね。レゴラス、どの木のどの実でもいいわ。射抜いて」
急に指示されたレゴラスは驚きながらも、比較的みんながはっきり見える場所になっている実に矢を射
た。
失敗することもなく、実に当たったことでその場の人たちから感嘆の声が聞こえた。
「レゴラス、ありがとう。じゃ、今度は私があの矢のついた実を落とすわね」
キリキリっと弓を引き、焦点を合わせてから思いっきり矢を放った。
すると、先程レゴラスが射た実は、確実に地面へと落ちた。
「おぉ!!」
「どう?剣も試してみる?旅に出る前に命なくなっちゃうかもしれないけど」
弓と矢筒を椅子の上に置き、今度は腰に下げていた剣を抜いて構える
「…いや、もういい。分かった。その代わり俺も同行する」
の実力を瞬時に悟り、気まずそうにしながらも彼は同行の意を表した。
「待って!俺も行きます!」
会議に参加していなかった小さなホビットが一人木の陰から飛び出し、フロドの横に腕を組みながら立
った。
「そう、一緒に秘密会議にまでくっついてくる奴だからな」
エルロンド卿は少し微笑みながら言った。
「俺たちも一緒に!縛られても縄をほどいて行く」
またしても小さなホビット2人が館から現れフロドの横に着いた。
「頭のいい奴がついて行かにゃ。だって…大切な…旅だろ?」
「じゃ、お前は失格だろ?」
本当にこの旅の目的を分かっているのか、かなり不安になった。
「10人の旅の仲間…。いいだろう。“指輪が結ぶ旅の仲間”だ」
エルロンド卿はそうして私たちにこの中つ国の未来を託した。
「やった!それでどこへ?」
「「「「「「「「「………」」」」」」」」」
やっぱりというか、分かっていないで旅の参加を決意したホビットは、もはや凄いと言えよう…。
誰もそれに答えるものはいなかった。
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