会議があった日の夜、裂け谷では旅の仲間が無事、指輪を葬ることが出来るようにと宴が開かれること
になった。
は会議が終わった際にエルロンド卿から言われたことがあった。
「。今宵の宴にはもう、そなたの部屋に用意されているであろう衣装を着て出席するように」
「え?衣装ですか??」
は目覚めてから、ほとんど旅装束のような衣装ばかり着ていた。
しかし、その事を知っているエルロンド卿はには1度でいい、綺麗な格好をして女である喜びを
分からせてあげたかった。
「あぁ、そうだ。アルウェンにはもう、頼んであるから手伝ってもらうといい」
そう言ってエルロンド卿はの前から去って行った。
部屋に帰ると、確かにテーブルの上に大きな箱が置いてあった。
恐る恐る箱を開けてみると、その中には真っ赤なロングドレスが入っていた。
とてもシンプルでとても鮮やかな赤い色。
折角用意してくれたんだからと思いその場で着てみることにした。
すると、サイズはピッタリでとても着心地がよかった。
しかし、背中がとても大きく開いていて、胸元も広く開いていた。
肩からは袖が落ちてしまいそうな感じである。
「こんなの着れないよぉ;恥ずかしい…」
と、脱ごうとしたところに扉をノックする音が聞こえた。
そのまま急いで扉を開くと、アルウェンが立っていた。
「あら、。もう、着ていてくれたのね?綺麗よ!とてもよく似合うわ!」
アルウェンは顔を綻ばせて嬉しそうに感想を述べた。
「でも…こんな格好恥ずかしいよ;やっぱりいつもの」
「さあ!お化粧なんかもしてもっと綺麗になりましょう♪」
「え?ちょっと待ってッ!私は!」
いそいそと用意を始めだしたアルウェンを止めようとした。
しかし、アルウェンは聞いていないようなそんな素振りをする。
「…アルウェン?」
いつものアルウェンとは違う感じがした。
「。貴女はやっぱり旅に出てしまうのね…。私が淋しくないとでも思った?」
私を見ずに、手だけを動かして言葉を続ける。
「私は貴女と過ごした日々はごく僅かでも、本当に妹が出来たみたいで嬉しかったのよ。でも、貴女が
目覚めた理由を知っているから止めることが出来ない。とてももどかしいの」
「…」
「心の中ではいつまでもここにいて欲しいと願っているわ。でも、それが叶わぬなら…必ずまたここに
戻ってきて。無事に旅から戻って、また一緒に語り明かしましょう!」
そう言ってアルウェンは笑顔で私の方を向いた。
「…ありがとう、アルウェン。そんなに思っていてくれたなんて嬉しい。私は必ず指輪を葬って、人間
になれたらここに戻ってくるわ。絶対の約束!」
私も大きく頷きながらアルウェンと約束をした。
「アルウェン〜;恥ずかしいって、こんなの〜;絶対に変だよ。私には似合わないって!」
あれからアルウェンは好き勝手に私にお化粧をし、優しく微笑んでいるばかりだった。
「あら、とても綺麗よ?そこらのエルフよりずっと綺麗…。さ、のドレス姿をお披露目しに行か
なくちゃ♪そろそろある人が来るわよ〜」
アルウェンはに仕上げとして赤い口紅を塗りながら待ち人を待った。
「え?誰か来るの?」
「フフ。をエスコートしてくれるって言う人がいたから呼んでおいたのよ♪」
そう言ってアルウェンは何やら面白そうに笑った。
するとドアをノックする音が聞こえ、アルウェンが扉を開けると、そこにはレゴラスが立っていた。
「え?レゴラス?!」
想像もしていなかった人物が部屋に入ってきてはとってもビックリした。
「、凄く綺麗だ…。アルウェン、本当に僕なんかがをエスコートしていいのかい?」
「えぇ。と話がしたかったんでしょう?ちょうどいい機会じゃない?私は先に行って準備を手伝
ってくるわね」
アルウェンはニッコリ微笑んで出て行ってしまった。
「…」
「…」
はっきり言ってレゴラスとまともに喋ったのはたった一度しかない。
そう、この部屋のテラスにいた時に声をかけられて以来は、会議で顔を合わせたくらいだった。
正直何故ここにレゴラスがいるのか分からなかった。
「…えぇっと…」
「」
何か話さないとと思ってたところに真剣な顔をしたレゴラスに声をかけられ、ビクッと肩が揺れた。
「え?な、何?」
「何故…何故君が旅に参加するんだい?とても長く危険な旅になるのは分かってるだろ?なのに何故自
分から命を危険に晒すんだい?は女の子なんだよ?そんな旅に出なくたって…」
「レゴラス…。そうだね、きっとそれはみんなが思ってることだと思う。でも、私の使命はサウロンを
倒すこと…指輪を葬ることなんだ。その為に今、私はここにいるの。お願い、分かって。詳しいことは
きちんとみんなに話すから」
「でも…僕はを危険な目に合わせたくない」
レゴラスは悲しい表情になって訴えてくる。
「ありがとう。でも、私は旅の仲間として認めて欲しい。もちろん危険なのは分かってる。それでも…
やらなきゃいけないから…」
「…の決意は固いんだね。だったらもう、僕は何も言わないよ」
まだ少し悲しそうな、呆れたような表情をしてレゴラスは私の同行を許してくれた。
「心配してくれてありがとう!早くサウロンを倒してみんな無事に戻ってこようね!」
「あぁ、そうだね」
二人で微笑みあい、これからの旅の決意を心に誓った。
「おっと、そろそろ行かないと。折角がこんなに綺麗なのに、僕が独り占めしてたら後が怖い」
「え…;私はこんな姿見られたくないよ〜;恥ずかしい…。私はいいから、レゴラス行って来なよ」
レゴラスの後ろに回り、背中をグイグイと押して部屋から出そうとした。しかし、その腕は難なくレゴ
ラスに捕まり、今度は逆に手をつかまれ連れ出される形になってしまった。
「ウワッ!ちょ、ちょっと!レゴラス?!」
私の呼びかけにレゴラスは振り向いたが、微笑むだけで何も言わずにまた歩き出した。
レゴラスはどうしても私を連れて宴に参加したいらしい…。
広間に着くころには私も諦めて自分で歩いていた。
そして広間の扉の前まで来ると、レゴラスは立ち止まった。
「どうしたの?」
疑問に思って聞くと、今まで繋いでいた手を解かれた。
「、僕にエスコートさせてくれる?」
「そのつもりで連れてきたんでしょ?」
呆れたように言うと、彼は子供のような笑顔になった。
そして私はレゴラスの腕に自分の腕を絡めた。
レゴラスは満足したように扉を開け、広間へと入った。
すると、その場にいた全員が一斉に私たちに視線を送る。
「うっ…;やっぱりこの格好が変なんだよ〜;レゴラス、戻ろうッ」
絡めている手に思わず力が入り、レゴラスの歩を止める。
「みんなはが綺麗だから見てるんだよ?もっと堂々と歩かなきゃ」
などという言葉はもう、の耳には入ってこなかった。
「」
名前を呼ばれて周りを見回すと、エルロンド卿とアルウェンが立っていた。
「良く似合っているではないか。とても美しいぞ」
「えぇ、とても綺麗だわ」
「あ、ありがとうございます…;」
「旅の前に良く食べて楽しむといい」
エルロンド卿はそれだけ言うとどこかへ行ってしまった。
その日の宴はいろいろな種族が集まっていて、その中でも指輪保持者であるフロドの種族、ホビット族
であるメリーとピピンが宴をとても盛り上げていた。
一応旅の仲間としてこれからの生活を共にすることもあり、私は一人一人に挨拶しようとした。
近くにフロドがいたのでレゴラスに理由を言ってそこで別れた。
「こんばんは。改めて挨拶に来たの」
「あ、こんばんは」
「こんばんはですだ」
私が声を掛けるとフロドの側にももう一人ホビットがいた。
「私は。これから旅を一緒に続ける仲間としてよろしくね」
「…あ、あぁ。うん!僕はフロド。んで、こっちがサム。よろしくね^^!!」
「おらはサムですだ。さん、よろしくお願いしますだ」
フロドはほのかに顔を赤く染めながら挨拶し、サムは何だか面白い言葉で挨拶してくれた。
二人と別れると、今度は人間の男性が壁際に立っているのが目に入った。
「…あの…」
恐る恐る声を掛ける。
「ん?…君は…」
「です。旅の仲間になるのを許してくれてありがとう…って、ちょっと、零れてるッ」
下を向きながら挨拶をしていたため、彼が手に持っていたグラスからお酒が零れたのが分かった。
そして顔を上げ彼を見るとハッと我に返ったかのように慌ててグラスを元に戻した。
「す、すまない!ドレスを汚してしまったかな;本当にすまない!つい、見惚れてて…あ、いや、俺は
何を言ってるんだ。えぇっと、そうだ、俺はゴンドールの執政であるデネソールの息子のボロミアだ。
旅の仲間としてこれからよろしく頼む」
ボロミアの慌てふためき様と、素直な言葉に嬉しく思い、今度こそ笑顔でボロミアに挨拶が出来た。
「うん、こちらこそよろしく」
そうしてボロミアと握手をして別れた。他の仲間にも挨拶をし、グロールフィンデルやエレストールに
も挨拶をし終えたころには宴も終わりに近づいていた。
するとレゴラスがやってきてた。
「、部屋まで送るよ」
レゴラスがそう言うや否や、どこからか私を呼んでいる声が聞こえた。
「「!!」」
「エルラダン!エルロヒア!!ずっと探してたのにいないから心配しちゃったわよ」
すると、急に私と二人の間に綺麗な色とりどりの花束が姿を現した。
「わあ!綺麗!!どうしたの?」
「の為に二人で摘みに行ってたんだ。そうしたらこんな時間になっちゃって;」
「僕たち、に何かプレゼントがしたかったんだけど、何がいいのか思いつかなくて…」
二人は同じ顔して申し訳なさそうにした。
「そんな…プレゼントなんて良かったのに…ありがと。すっごく嬉しいよ」
二人の優しさが伝わり、思わず大粒の涙が一粒零れた。
「エルロヒア…エルラダン…私のこと…忘れないでね…?」
「何言ってるんだよ!僕らがを忘れるわけないじゃないか!」
「そうだよ!僕らエルフにとってと過ごした時間はほんの一瞬に過ぎないかもしれない。でも、
僕らがを忘れることは永遠にないよ!!」
そう言って二人は私の頭をポンポンっと撫で、それにもまた涙が出た。
「うん、…ありがとう!!私も絶対に二人のこと忘れないよ!帰ってきたらまた剣の練習しようね!」
「「次は負けないよ!」」
二人は別れる最後まで綺麗にそろっていた。
「、そろそろ部屋へ戻ろう。明日の出発に響くよ?」
こうしてレゴラスは優しく私の背中を押し、部屋へと送ってくれた。
BACK